三途の川のお茶屋さん
私と死別した後、悟志さんがどう生きようが、それは悟志さんの自由だ。
分かっているのに、握り締めた拳には爪が食い込んで痛みが走る。
目には熱い物が滲み、目の前の十夜の美貌が霞んだ。
「私の思いは変わりません。この目に再び悟志さんを見るまで、私はここから動きません」
意地で震えを止め、なんとか涙を呑み込んで答えた。
「……ああそうかよ。勝手にしろ」
十夜は一瞬目を瞠り、スッと視線を逸らした。
「どうせ三十年、もつとは思えん。乗りたくなったらいつでも船に乗れ」
そう言い残し、十夜は消えた。
啖呵を切ったくせに、十夜が消えると一気に心細さに襲われた。一人取り残され、押しつぶされそうな恐怖に怯えた。
三十年と言う月日を、私は甘く見たのだろうか……。