三途の川のお茶屋さん


店内を切り盛りする私の手にも余裕があって、配膳の傍らや、お会計の合い間など、女性と少し話をした。

「ねぇお嬢さん、日本は便利なところね? どこに行っても接客は丁寧だし、商店はいつでも開いていて買い物にも困らない。それにほら、時間にとても正確。私は日本の配送を利用して驚いたのよ」

女性は日本を「便利」だという。

日本に暮らしていたという女性は、一見の旅行者とは違い、日本の本質に鋭く切り込んでいた。

しかも、ここが彼女の魂の本来の通過点ではないからだろう。女性は三途の川にあって、他の魂よりも、生前の記憶に通じていた。

「便利な日本は、住みやすいところでしたか?」

私は、女性に水を向けてみた。

「うーん、そうね。正直、住みやすいとは思わないわね。正確さを維持する事は、人の余裕を失わせるのかもしれないわ。日本の人達は皆、あくせくと忙しいもの」

身につまされる言葉で、そして日本というところを如実に表していると思った。

「ふふふっ、仰る通りですね。便利になりすぎちゃうと、軋轢も生じてしまうのかもしれません。確かに毎日がとても忙しなくて、皆余裕がないかもしれませんね」






< 80 / 329 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop