三途の川のお茶屋さん


そうしてお茶を手に店内に戻る。客席にまだ、女性は戻っていなかった。

……まだ、お手洗い?

なんとなく胸が騒ぎ、お手洗いの前まで行った。するとお手洗いの扉は青い【空】の表記。

うそっ!?
慌ててノックをして開けてみれば、中はもぬけの殻だった。

「! 船はまだ、出てないよねっ!?」

私は大慌てで店を飛び出し、船乗り場に駆けた。


「本日第三便、出航いたしまーす!」


! 懸人さんの声が上がる。

見れば懸人さんの手が、今まさに係留柱からロープを外すところ!

「懸人さんっ、出さないで! 待って!! 待って下さい!!」
「え!? さ、幸子さん!?」

すんでのところ、私の声を聞き付けた懸人さんが外しかけたロープを戻した。



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