三途の川のお茶屋さん
「……お客様、いませんね」
けれど大急ぎで戻った店内に、お客様はいなかった。
「そうだったか?」
十夜に笑われて、誤魔化されて、……なんだか私は、釈然としない。
「! ほら幸子、可愛い顔が台無しだぞ?」
ぷぅっと膨らませた頬を、十夜がツンツンと突く。
「いいんですよ。どうせ元々、可愛くなんてないんです」
「? 幸子は可愛いだろう?」
!!
膨らませた頬も、一瞬で空気が抜ける。ギョっとして十夜を見れば、正面に見つめる十夜は至極真面目な顔をして、寸分も笑っていない。
恥ずかし紛れに俯いて、慌てて隠してみせたけど、私の頬は熱を持って火照っていた。きっと、真っ赤に染まってる。
「幸子は、可愛い」
そう言って、十夜は私の頭を撫でた。
その後、お客様が来店して私は接客に戻り、十夜も店を出ていった。
……だけど胸の鼓動は、いつまでも鳴りやまなかった。