三途の川のお茶屋さん
「ではお嬢さん、これはお代じゃ」
老爺は私の手に硬貨を握らせると、足取り軽く店を出て行った。
……もしかして、天界の人?
このまま老爺を行かせていいのか、疑念が湧く。
「あ……」
老爺を呼び止めようと、一歩踏み出した。
「お嬢さん、団子の追加を頼めるかね?」
「あたしゃ煎茶のおかわりをお願いするよ」
けれど店内のお客様から、次々と声が掛かる。
「は、はーい! ただいま順番にうかがいます」
老爺から受け取った硬貨をエプロンのポケットに突っ込んで、私はお客様の対応に追われた。
……ひぇぇ。ここまでの大繁盛は、正直一人で切り盛りするには辛い。
なにせここは、追加の人員補充などあり得ぬ地なのだ。
全ての対応を終え、店の軒先を見た時には既に老爺の姿はなくなっていた。