三途の川のお茶屋さん
この日は、最後の船を見送って、店じまいを終えても十夜の迎えがなかった。
暖簾をしまい、施錠する。
周囲をぐるり見渡すが、やはり十夜の姿はなかった。
「珍しい……」
十夜の迎えがないのは、二十年の年月の中、これが二度目だ。
実は、かつて一度だけ十夜の迎えがない日があった。
その日、十夜は三途の川をはじめとした天界各所の管理者を集めての研修会に参加していた。
研修後には飲み会だから、帰りは遅くなるだろうと聞かされていた。
『管理者を集めての研修会』『飲み会』、現世を彷彿とさせるこれらのキーワードに思わず噴き出したのは言うまでもない。
十夜も随分と俗な事を言うと、感心したものだった。
ところが今日は、そんな事は一言も聞かされていない。
「十夜ー!?」