三途の川のお茶屋さん


一応、声を張ってみる。

しかし返事はなく、いないものはやはり、いない。

私は首を傾げ、一人屋敷に向かって歩き出した。


「幸子さーん!」

しばらく歩いたところで、背中に向かって呼び掛けられた。

「あ、懸人さん。お疲れ様です」

振り返ると、そこには船頭の懸人さんがいた。走ってきたのだろう懸人さんは額に汗を浮かべ、肩で息をしていた。

ここ、三途の川には十夜だけが暮らす。

懸人さんの居住は対岸にあり、対岸に船を渡した懸人さんがこちら岸に戻ってくるのはとても珍しい事だった。

もしかすると船乗り場に緊急の問題が発生してしまったのだろうか。そうすると、残念ながら肝心の十夜がいない……。



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