三途の川のお茶屋さん
「それでも、ありがとうございます。あ! 懸人さん、残り物ですがよかったらお団子を持っていってください。懸人さん、醤油ダレのお団子、お好きですよね?」
私は手早く風呂敷包を解く。
「今日は注文にムラがあって、たまたま醤油ダレだけ残ってるんです。ふふふっ、なんだか懸人さんにお渡しするのを計ったみたいですよね?」
風呂敷の中から団子を入れた包装紙を取り出すと、懸人さんに渡した。
「ありがとう、幸子さん」
懸人さんが受け取る。ほんの一瞬、手と手が僅かに触れ合った。
「軽く炙ると作り立ての美味しさが味わえますよ。後は裏技なんですけど、柚子胡椒を少し振ったりなんかするとピリッとしてまた違った味わいが出来ます」
何故か懸人さんは答えずに、俯いたままだった。
あ、男の人にはちょっと面倒だったかな?
十夜も私が手を出さなければ、自分から炙るなんて手間は掛けない。柚子胡椒も、またしかり。
「あ、面倒な事言っちゃってすません! もちろんそのまま食べてもオッケーですよ!!」
「はい……」
胸に団子を抱いた懸人さんは、小さく頷いてみせた。送りの申し出を断り、懸人さんとはここで別れた。
別れ際、懸人さんの目が夕焼けを受けてだろうか、微かに赤く、熱を孕んでいるように見えた。