瑠璃色の涙
「何読んでんの」

ひょこっと扉から顔を出した遥。その拍子に、真っ黒なキレのある髪が揺れた。

「秘密」

サッと本を隠した私は、笑ってみせた。

「えー。気になる」

拗ねたように顔をしかめる彼は、世界一可愛いだろう。
本をデスクに置こうとして、あるものに目が留まった。

「じゃあ、この花が枯れたら、本を貸してあげる」

それは、相変わらず瑞々しい、真っ黄色なマリーゴールドだった。遥が来るちょっと前に、いつも水替えをしている。

「全然枯れそうにないじゃん。俺、一生読めないよ、その本」

不覚ながらも、”一生”という言葉が嬉しかった。
だって、まるで、


「まあ、枯らす気もさらさらないけどね」


なんて言って、私の頭を撫でるように花びらに触れたから。

自分のことを綺麗だなんて思ってはいないけれど、遥の触れ方が、私に触れる時とあまりにも似ていて、マリーゴールドが自分と重なって見えてしまう。

「葎」

そこで名前を呼ばれた。








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