きみだけ
放課後のこと
オレンジ色の夕日が眩しい光を差し込んでくる放課後の教室には、今は私ひとり。

私は、部活中の彼氏がいる校庭がよく見える、窓際の前から五番目の特等席に座って彼氏の部活が終わるのを待っている。

机の上には、一冊の雑誌。

朝、学校に来る途中にコンビニに寄って、買ってきたもの。

最近ドラマで見て、かっこいいなと思った俳優さんの特集があることを知って、欲しくなった雑誌。

その俳優さんの特集ページをめくりながら、思わずボソッとひとりごと。

「はぁ、かっこいい・・・」

「誰がかっこいいって?」

いきなり頭の上から降ってきた声に、ビックリして雑誌を落としてしまった。

「あ」

私の声と重なった声の主は、彼氏だった。

どうやら部活が終わったらしく、制服に着替えている。手に持っていた鞄を、私が座っている机よりひとつ前の机の上に置いた。
落ちた雑誌を拾って、私が見ていたページを見る。

「前にハマってるって言ってた、あのドラマに出てる人?」

「そうそう! この写真がかっこいいんだ〜!」

一目見た瞬間に、お気に入りになったページまでめくって指差す。
そこには、こちらに手を差し出しながら、優しく微笑む彼氏感満載の写真。

「こういうのがいいんだ?」

チラッと私を見てくる彼氏。
彼氏が立ったままなので、私を見下ろす感じになる。

「だって、かっこいいじゃん!」

彼氏の持っている本を、ひったくるようにして取り返した。
このかっこよさがわからない人には、見せてあげないよっ!

「ふーん・・・」

不満そうな彼氏の声が聞こえたと思ったら、片手で後頭部をがっちり掴まれる。

なになに!?

「・・・俺だけ見てろよ」

急に真剣な顔をした彼氏の顔が近付いてきたと思ったら、キスされてくちびるを開かされる。

グッと彼氏が力を入れて・・・

ブッ

入れられたのは、空気!

「んん!?」

ビックリして、彼氏の体を押して顔を離す。

「ちょっと!?」

「かっこいい男なら、ここにいるでしょ〜」

いたずらっ子みたいな顔をしながら、机に置いた鞄を持つと、そのまま教室を出て行こうとする。

もう!

雑誌を鞄の中に入れて、私も慌てて席を立つ。
いつもなら私に合わせてゆっくり歩いてくれるのに、私が小走りでないと追いつけないほどの歩幅で、ズンズン進んで行ってしまう。

さっきから何なんだ!

「ちょっと待って!」

待ってと言っているのに、スピードアップしたんじゃないかと思うほど、彼氏が進む速度は速い。

「ねぇ!」

もう小走りではなく、ほぼ走って彼氏の後ろに追いついて、気付いた。

・・・もしかして、顔赤い?

そのまま彼氏の前に走ってまわりこんで、振り向く。

やっぱり、顔赤い。

振り向いた私と目が合うと、彼氏の顔がより一層赤くなり、歩くスピードも上がった。

「バーカバーカ」

子供かよ!という言葉を残して、足が止まってしまった私を追い抜いて行く。

彼氏の行動に最初はハテナが飛んでいたが、 真っ赤な彼氏の顔を見て、何となく想像がついてきた。

えっと・・・俳優さんにヤキモチやいて、カッコつけてみたものの、やってる自分が恥ずかしくなって照れたってことかな・・・?

そう思うと急に、彼氏が可愛く思えてきた。
ヤバイ、顔がにやける。

私よりだいぶ先に進んでしまった彼氏を走って追いかけ、腕を掴んで引き止める。

「わっ!?」

結構なスピードで歩いていたところをいきなり後ろに引っ張られた彼氏は、よろけながら止まる。
腕を掴んだまま、そこを支えにつま先立ちになって、私よりだいぶ背の高い彼氏の頭を撫でる。

「可愛い」

「可愛いって言うな!」

彼氏が可愛いと言われるのが嫌いなのは、知ってる。でも、可愛いんだもん!

「可愛いんだもん、仕方ないじゃん♪」

そう言って、今度は私が前になって早歩き・・・からの、すぐに彼氏が追いかけてきたからダッシュ!

「こら、待て!」

「嫌だよ〜♪」

知ってるよ。
ほんとはすぐに捕まえられるのに、わざとちょっとゆっくり走ってくれてるの。

「廊下は走るなー!」

彼氏が先生の真似をするから、廊下を走りながらお互い笑ってしまう。

知ってるよ。
私が笑うから、こっそり先生の真似を練習してるの。

知ってるよ。
ふたりで並んで歩くとき、いつもさりげなく車道側を歩いてくれていること。

知ってるよ。
照れるから苦手みたいだけど、私がそうしてほしいって思っていることを知ってから、歩くときはいつも手を繋いでくれていること。

きみのこと、色々知っているつもりだったけど。でも、俳優さんにまでヤキモチをやくのは知らなかったな。

付き合って、しばらくたつけど。
きみのこと知るたびに、好きになるんだ。

だから、ヤキモチやかなくても大丈夫。
きみだけしか見てないよ。
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