御曹司は恋の音色にとらわれる
例の彼、それが誰の事を指しているのかは、すぐ分かった。

演奏前に話していた、2か月前から聴きに来てくれている、
恋だの話していた、彼だろう。

あまりのタイミングに戸惑いつつ、マスターから紙を受け取る。

紙には、名前と喫茶店の名前が書かれていた。

「余計なお世話かなと思ったんだけどね」

マスターが続ける。

「美華ちゃんに興味あるなら、話してみるかいと
 彼に聞いてみたんだよ」

マスターの話によると、彼は紙に書かれた喫茶店で待っていると言う。
30分以内に私が行かなければ、そのまま帰る約束。

「いい機会だと思う、一度話してみたらどうだろう」

「無理強いはしないけどね」と、マスターが曖昧な笑顔で私を見る。
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