御曹司は恋の音色にとらわれる
「分かりました、行きます」

紙をスマートフォンケースに挟んで、
ドレスを脱ぐため、フィッティングルームに入る。

「恋?」「きゃ、運命の出会い」
「燃える心」「ロマン!」

中條さんと、マスターが、またこそこそ話している
のを聞きながら、洋服に袖を通す。

「とりあえず、待たせたままっていうのが、
 申し訳ないので」

そう言うと、マスターが真剣な声で言う。

「もし、中途半端に気を持たせるなら、その方が酷だよ、
 興味ないなら、行かない方がいい」

フィッティングルームを出て、マスターを見て答える。

「興味も何も、今始めて名前知った相手ですから、
 会ってみないと何も分かりません」

中條さんもうなずき、「まず何事も一歩から」と、
ありがたいのか適当なのか、よく分からない受け答えをしていた。
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