御曹司は恋の音色にとらわれる
曲のリストを、譜面台に移動させると、
テーブルにステーキが置かれる。

オーナーの好意で、演奏前の出演者には、
必ずステーキが振舞われる。

おかげで、毎週プロの焼いたステーキが食べられ、
ここで仕事する楽しみの一つになっていた。

「今日のタレ何にします?」

ここのステーキハウスでは、
醤油、味噌、わざび、オリジナルなど6種類のソースがあり、
気分と好みによってかけてもらえる。

「今日は味噌で」

「僕はわさびかな」

ジュっと鉄板にソースがかかる音がして、食欲をそそる。

「いい音ですね」

「おや、音楽家は鉄板の音にも敏感なのですかな」

マスターの冗談めかした言葉を聞きながら、
目の前でいい音を立てるステーキに手を伸ばした。
< 7 / 102 >

この作品をシェア

pagetop