御曹司は恋の音色にとらわれる
その笑顔は、最初訪問した時の、飾りの笑顔ではなく、
本心からの笑顔だと知って、ほっとした。

「化粧、直した方がいいですよ」

「え?」

「マスカラ落ちてます」

その後、私の家の洗面台で、叫び声を上げ、
洗顔をして、一からメイクをしていた。

その時、私は冷蔵庫から缶チューハイを用意する。

「いける口ですか?」

私が誘うと、迷っているようだった。

「職場での拓の事、教えて下さい」

「そうですね、拓様の情けない話いっぱいすると、
 気持ちも変わるかもしれないですからね」

そう言いながら、語った彼女の言葉は、
拓への愛が溢れていた。

いつか、思い出になればいい。
拓には本心を語れないんだろうと思い、
ずっと彼女の話に付き合った。
< 76 / 102 >

この作品をシェア

pagetop