キスすらできない。




うーん、先生まだ戻れないかなぁ。

混み合った祭りの雑踏を他人事の様に見送るのは屋台と屋台の間。

通行の邪魔にならない様にと自分の滑りこましたそこで携帯を片手にキョロキョロと視線を走らせるのだ。

先生とのデートの仕切り直し。

きっかり18時に仕事を終えた先生と改めて縁日へ出向いたわけだけども。

途中体調不良で倒れかけている人間と遭遇し、たまたまその場に居合わせた先生が応急処置を施しながらこの場を離れたわけで。

邪魔にならないように一人この場に残ってどれほどたったか。

救急車が来たら後は任せて戻ってくるって言ってたけどなぁ。

ここでジッとしてるのも退屈だし、この付近の出店で遊んでいようか。

立ち尽くして待っているのも飽きて、そろりと雑踏に踏み出すと流れに任せて歩み出す。

それでも、ここで待っていると告げていたこともあり、そう遠くまで行動を起こす気はなく。

二三の出店を過ぎたあたり、

「お、日陽ちゃん?日陽ちゃんじゃないか?」

そんな呼びかけは一つの出店から。

呼ばれるままに振り返れば視界に捉えるのは射的の出店で、そこからにこやかに片手をあげて来るのは馴染みのある的屋のおじさんなのだ。




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