キスすらできない。



スッと伸びてきた手や意識はまわりなどお構いなしに私を捕らえると、

「……勝手に俺のモノを景品にするな、日陽」

「っ………」

グイッと引かれた体は先生のを間近に見上げる距離。

陰った中で捉える先生の表情は確かに怒っていると感じる無表情なのに、走る動悸は畏怖からばかりじゃない。

いや、畏怖よりも……歓喜が勝る。

だって……嫉妬……してくれてる。

ピヨちゃんじゃなくて……『日陽』って…。

「えっとぉ……先生?日陽ちゃんとご一緒だったんで?」

絶妙な空気を申し訳なさげに割って入ってきたのはおいちゃんの戸惑いで。

そんな声音に一瞬忘れかけていたリアルに回帰したわけだけども。

「………商売上手は結構ですが人の奥さんを安いナンパに煽らないでくださいね」

「へっ?お、奥さんって……えっ!?」

あっ……おいちゃんが面白い顔してる。

そんな事を思ったのは先生に引かれて歩き出した後。

振り返り捉えたおいちゃんは『信じられない』という興奮に満ちてこちらを見つめてワタワタしているのだ。

ナンパ男達もさすがに『人妻』と判明した私に執着する筈もなく、『なんだよ』なんてぼやきながら去っていくのだ。

そんな背後の事情なんてお構いなし。

まるでその場から逃げるみたいに歩く先生の歩みは早くて。

絡む手の力が強くて。

あ……マズいな。

好き……。


< 107 / 167 >

この作品をシェア

pagetop