キスすらできない。
予兆なんてまるでない。
構えてもおらず、週末の今日は家事も面倒だと外食で済ませて。
ほろ酔いの肌に夜風を感じる徒歩な帰路を歩んだ末。
記憶に閉じ込め切れず無くしていたものを拾った。
一瞬、夢か現かと困惑した程の唐突。
アホか。
夢にするには成長しすぎているだろう。
俺の夢に出てくる彼女はいつだって……。
脳裏に過ぎるのはフワリと風に遊ばれる制服の端。
そんな回想が全貌に及ぶ前に瞬きで断ち切り、立ち止まってしまっていた足を歩ませると現を覗きこんだ。
自宅と併設する小児科の入り口前。
座り込んだ状態から崩れたのだと分かる寝姿は実に無防備で、実に艶やか。
白い肌に短い黒髪。
紅潮した頬の理由は近くにあるビール缶が物語る。
何があったかは知らないけれど、何かあったのは明確。
小さなキャリーは彼女が必要とする全てだろうか?
こんな時刻に最寄りの実家には足を運ばず酔いつぶれているのだ。
訳ありであることなんて聞くまでもない。
聞くまででないからこそ驚愕以上に厄介な熱が込み上げてしまって。
「……けしからんねえ。…こんな酔っ払って無防備に自分を投げ売って、」
この辺で犯罪の類は聞かないにしても…。
歳頃の女が意識も不確かにそこにあるなんてどれだけ犯罪精神へのサービスなのか。
「……拾い食いするぞ?」
危機感なんて皆無である彼女の頬を指先でひと撫でだ。
ただ、それだけの刺激であったのに。
「……せん……せ?」
「っ……」
再び息吹くように。
弾かれた声音は微睡み孕んであどけなく無垢。
鼓膜が震えた瞬間に過去のそれまで同時に反響させて。
ああ…彼女だ。
ピヨちゃんだ。