キスすらできない。
改めて彼女の存在が自分に上書きされた瞬間。
「っ…先生…だぁ……」
「っ……」
今度は確信を持った様な呼び方と、飛び込んできた温もりと。
支え切れない勢いでもないのによろけてしまったのは予想外であったから。
だって記憶にある彼女はこんな風に自分を開放するのが苦手で…、
「フフッ…先生。……先生、先生……」
「……ピヨ…ちゃん?」
「…先生……その声…懐かしい。……好き」
「っ……」
「もっと…呼んでください。もっとギュッと……もっと…撫でて……センセ…」
笑っているのか泣いているのか。
アルコール混じりの再会はきっと彼女の中でも夢現で。
現でないからこそ素直な感情が開放されているんだろう。
そうでなければ彼女がこんな大胆に甘えてくる筈ない。
縋って来る筈がない。
「センセ……っ…会いたかっ…た…」
俺のところに帰巣する筈が…。
「先生……せん…せい……」
「っ……ピヨ…ちゃん…」
帰巣……した。
ようやくどこか夢から現に傾き始めた自分の意識が彼女を認識して。
認識して名を呼べば閉じ込めていた感情が一気に込み上げ溢れかけるのだ。
そんな感情の一波。
抱きつきにきていた彼女の体を包み込む様に抱きしめ返していて。
指を通す短い黒髪は昔のままのしっとりとした感触。
そこに懐かしさも覚えるのに、体で得る感触はどこまでも新鮮で。
酷く焦がれていたもので。
「先生…、」
久しぶりに…
「……会いたかったよ。……俺も」
自分の中に男を感じた。