キスすらできない。
『痛くて泣くのは人間の当たり前の反応だよ?』
『泣いて痛みが無くなるわけじゃないもん』
そんな風に、泣くのを堪える女の子であった。
泣いてもどうにもならないと思う事には自ら早々に諦め期待しないような。
その性質がどこか欠陥している自分と類似して。
それでも先天性な自分とは異なり、彼女のそれは後天性。
我慢なんて苦痛も生じない自分とは違って、彼女は諦める度に小さな体に痛みと膿を蓄積していくのだ。
そう思ったらなんとなくであったのだ。
なんとなく、ポケットの中で忘れかけられていたキャンディを彼女に与えていて。
キョトンとしている姿の頭をひと撫で。
「……頑張ったんだね」
そんな一言は慰めるような笑顔もなく。
慈悲の心なんて物もない。
ただの…気まぐれに近いものであった筈であったのに。
「っ…ふぅっ……」
「っ……」
次の瞬間にはパッチリとした大きな双眸からは大粒の涙が溢れ落ちていて。
それでも尚隠さんと目を擦って俯く姿がいじらしくて。
彼女がひた隠しにする自分をこっそり垣間見た様な。
背徳感と興奮はきっとどこかで繋がっている。
自分だけが知る特別という感覚は自分の中でも実に新鮮で、自分の中でも特別。
それは情とは程遠い身勝手な独占欲。
子供が一人特別な秘め事を見つけてしまい込む様な。
そんな執着が始まりであったのに。