キスすらできない。
あー…、でもいいや。
もう悩むのも面倒くさ。
それでなくとも面倒くささから逃げてきているのだ。
逃げた先でも面倒な事に頭を使うなんて御免被る。
そんな結論で思考を放棄すると、体の気怠さに素直にばさりとベッドに倒れ込んだ。
彼が誰にせよだ、所詮お互いに一夜限りの関係だろう。
寧ろこうして宿を貸してくれたのだと考えれば感謝こそしろ不満なんて…。
と、思ったタイミングだ。
ガチャリと再度開かれた扉の響きと、動かす視線はデジャブに近い。
それでも…、
「………」
「……あれ?……これでも分かんないくらいに俺歳食った?」
「っ……」
いえいえいえ。
今度は誰か分からないというフリーズや戸惑いじゃないんです。
寧ろ、詳細が明らかになりすぎた故の戸惑いで。
今更ながら【馴染み】がある筈だ。
安堵する筈だよ。
でも今は……安堵より混乱。
さっきのムサい男はいずこへ?と問いたくなるビフォーアフター。
無造作に目まで覆っていた髪はさっきよりは適当にセットされ顔立ちをクリアに映す。
口元や顎に広がっていた無精ひげも綺麗に剃られ顎のシャープさがお披露目されて。
服装に至っては先程変わらずなTシャツにジーンズなのに、ガラリと雰囲気が変わったのは新たに羽織った真っ白な白衣のせいだろう。
ここまでされたら分からない筈がない。
と、いうか、さっきの段階で何故気づけなかった私!
だって……
「っ……先…生?」
「……おはよう、…ピヨちゃん」
「っ~~~」
待って…。
全力で死にたい。
懐かしく、心地よい筈のその呼び方も声音さえも今は毒。