キスすらできない。


火照った顔を仰いで逃げる様に時計に意識を向けてしまえばループの完成。

ワクワク、ソワソワ。

じれじれ、もんもん。

今か今かとそんな時間すら楽しんではいたのだけども。

流石に…、

「…遅すぎない?」

そんな呟きが溢れたのは時計の針が20時直前を示したタイミング。

だって、いくらなんでも遅すぎるだろ。

これが、自宅けら離れた勤務地であるなら何かしらの交通状況で遅れているのかもと納得はするが、勤務地は併設された隣続き。

なんなら通路一本の扉一つ抜ければ職場であるのだ。

扉一つであるなら確認も簡単じゃないか。と思うかもしれない。

だけど、よくよく考えてみよう。

併設されようがそこは職場であるのだ。

普通であるなら、旦那の帰りが遅いからといって会社に押しかけズカズカと部署まで踏み込むような事はそうないだろう。

少なくとも自分はそのタイプのマナーを保持しており、いくら配偶者であれおいそれとその一線を踏み越えるような事はしないのだ。

とはいえ、近いが故にこういう時はその一線の手前でフラついてしまうのだ。
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