キスすらできない。
流石に遅いしな。
いやいや、でもでも医療のお仕事なんだからこういう時もあるでしょうよ!
でも、今までここまで遅い日なんてなかったじゃない?
今までたって、私が知り得る今までなんて所詮な週単位じゃない!
ああ、天使と悪魔のせめぎ合い。
両者引かずであるけれど、少々悪魔の優勢であるのか気がつけば扉の前で立ち往生ときたもんだ。
…末期だろ私!
留守番が寂しくて玄関先で帰りを待つ子供かっ!!
いや、先生なら猫か犬扱いをしてきそうだ。
とにかく!もういい大人がこんな堪え性のない事でいいものか!
……チラッと覗くだけに留めよう、うん。
悪魔様の勝利。
ほんの少し扉を開けて、中の雰囲気だけでも察知したらすぐに身を戻そうと禁断の扉に手をかけたのだ。
その結果、
「あら、日陽ちゃん」
「っ…」
開けたベストタイミングに顔なじみの婦長さんに鉢合わせしたった…。
日陽ちゃんと呼ぶくらいの昔馴染み。
なんなら私の幼少期まで知るベテランもベテランな職員さんなのだ。
勿論、今の私と先生の関係も把握しているからにして、
「やあねえ、寂しくなって帰りが遅い旦那さまのお迎えかしら?」
「しーっ!曽根さん、しーっ!」
「あっはは、図星故に必死?」
「ち、違っ、ただあんまり遅いから心配で」
「あらあら、先生ってば連絡の一つもしてないの?…って、してる暇もなかったか」
「えっと…つまり暇がないほど忙しい感じだったんですか?」
「この異例的猛暑じゃない?午後からバタバタと雪崩れ込みのベットは埋まりまくりよ」
「あっ…、成る程…」
確かに午前中から既に気温は地獄であったわ。