キスすらできない。


熱中症が多発してもおかしくない。

買い物に出ていた時間を思い出してみれば、その説明に納得がいく。

あの昼の時間の後はどうやら連絡も出来ぬほどその処置、処方におわれた先生であったのだろう。

脱水症状の輸液注射とくれば点滴で2時間はかかるだろうか?

18時ギリギリに来院した患者さんで終わるのは20時近く。

そう考えればこの時間まで帰ってこないのは理解出来る。

そうか、

そうなのか…。

「先生もお疲れベッド一直線コースだろうね、きっと」

「そう…ですよね」

「良かったわねぇ。今日は手抜き料理で楽出来ちゃうわよ。…って、まだ手を抜きたいなんて感覚ないか、新婚さんは」

「あ…ははっ、まあ…特に…。えと…、私そろそろ失礼しますね」

新婚弄りに発展しそうな会話をするりと回収して会釈をすると、スッとその身を居住区の方へと引き下げる。

そうしてパタリと封をしてしまえば、はぁっと吐き出される息と一緒に何かがフワリと抜けてしまって。

脱力感と共にズシリとのしかかってくるこれは失望に近い感覚か。

その重さに押し込まれるようにしゃがみ込むとまた一息。


< 148 / 167 >

この作品をシェア

pagetop