キスすらできない。

ああ、これ……知ってる。

寧ろ、馴染み深いや。

私の恋路では当たり前の物で慣れなければいけなかったもの。

いやいや、仕方ないじゃないの日陽。

仕事よ?

こればっかりは先の読めない人の生に関わるお仕事じゃない。

連絡が出来ないのも仕方がないし、予定が狂うのも仕方がない。

なんなら失望に気落ちしてるのは私だけじゃなく同等。

寧ろ、言い出しっぺの先生の方がよっぽど…。

思い返してみても、あの約束に嘘はない。

私をからかうような意地悪さはチラついてたけど、楽しみだと告げた姿はありのままの先生だった。

その楽しみに予定外が発生して、さらに多忙に疲労してと、ダメージが大なのは私より先生な筈。

私がすべきは落ち込むより帰ってきた旦那様への労りでしょ!!

それに、こんな予定変更の気落ちなんて慣れっこでしょう!日陽!

はいっ、落ち込まない!

パチンッと両頬を叩いて自分への叱咤激励。

今度は溜め息でなく、気合いを入れ直す意味で息を吐くと予定変更に体を動かした。

お風呂は入るか分からないけどお湯を張っておこう。

ご飯は食べれるかな?

もしかしたら米くらいは食べれるかもだから、すぐに齧りつけるおにぎりのがいいかも。

そんな風に思考を働かせ、テキパキと準備を整えていく。

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