キスすらできない。

そうこうしている間に時間も経過して、気がつけば21時半も回ろうという夜半。

流石に連絡の折。

20時半を過ぎた頃に先生から言葉短なメールの一報はあったのだ。

【ごめん。これから中央病院に行くので先に寝ててください】

中央病院という事は少々重体な患者さんが居たという事だろうか。

「お医者様は大変だなぁ…」

そんな感想をポツリと零したのは自分自身への戒めか。

今後もきっと同じような事は幾度とあって、いちいち落胆しすぎないように。

先生を責めちゃいけない。

お仕事なんだから。

それでも、どうしてもモヤつくのはきっと…。

自分でも新鮮だと感じるボディクリームの甘い匂いのせいだ。

その匂いが鼻腔を擽る度になんとも言えない哀愁が滲んでしまって。

それでも『仕方ない』と言う言葉を特効薬の如く染み渡らせてベッドの中へと身を投じたのだ。

眠ってしまえば全てが解決。

何も感じない程、夢を見ない程深く眠ってしまえば……。










「っ…!!!?」

いつの間に意識を手放していたのか。

願望叶って夢すら見ていなかった。

寝ていたことに気がついたのも今しがた。

不意に体に得た衝撃にビクリッと睡眠から引き起こされたのだ。

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