キスすらできない。
アルコールをいつも以上に煽った理由だって、箍が外れてしまえば『なんとでもなれ』なんて勢いで帰れるかと思ったからなのに。
だけども実際はコレだ。
わかっているのだ。
心の平穏を求めるには実家と言う場所は少々窮屈な場所なのだと。
それでも、こんな時に頼れる程深い絆の友人すらいない。
唯一であった繋がりの恋路を絶ってみればどれだけ寂しい女であるのか。
それでも、それなりに頑張って踏ん張って生きてるつもりだったのにな。
別にだ、常日頃から甘やかされたいなんて思わない。
頭を撫でてこれでもかと労ってほしいわけじゃない。
ただ、過剰に言葉や態度にせずとも、ただ小さくでも頑張ってる自分を理解してもらえたら…。
「…って、あいつじゃん」
結局回帰かよ。
悲しくも自分の理想と一致したのは断ち切ってきた存在で。
そんな自分に呆れ全開に零すのは溜息ばかり。
25年も生きてきて理想の男は1人だけかよ。と、失笑まで弾きそうになった刹那、
『頑張ったね、ピヨちゃん』
「っ……」
脳裏に再生した筈の古い音声が耳に直に響いた気がした。
同時にフワリとした風が頭を撫でたかの様な感触を残して。
口内にまで甘い記憶が鮮明になった所まではハッキリと覚えている。