想い花をキミに
「亜砂果、これ食べる?」と彼が差し出したお菓子を私の口元まで運んでくれて、それを美味しそうに頬張る。
いつもと変わらない日常がそこにはあった。
私はこの日常を壊す勇気がなくて、あえて隼太に何も聞かなかったのかもしれない。

聞いてしまえば、私たちの何かが変わってしまうような気がしたから。
意識的にその話題を避けることは簡単だった。
話題にしなきゃいいだけのことだから。

だけど、出しちゃいけない話題があると、あえて別の事を話そうとする意識が働いてかえって会話がぎこちなくなる。

そんな私のぎこちなさに隼太は気づいていたのだろうか。
以前より会話が少なくなった気がする。

その少なくなった会話分を補うかのように、唇を重ねたり体を交えたりと言葉に頼らない方法で隼太と触れ合う時間が多くなっていった。

無言になればキスをして、キスをしたらその先があって──
そうやって私たちは大事なことから目を背けてきたんだ。

向き合わなきゃいけないことだったはずなのに。

私たちがそうやって守り抜いてきた無言の幸せは、ある時急に奪われたの。
存在を忘れかけていたあの人によって──


私の前に突きつけられたのは残酷な現実。

「清宮亜砂果さん。お迎えに来ました。一緒に帰りましょう。」

私の幸せだった生活はあっという間に崩れ落ちた。


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