想い花をキミに
「なんかいいですね、こういうの。落ち着くっていうか、優しい気持ちになるっていうか。」

色とりどりの花を眺めながら私が呟くと、

「何か悩みがあるのかしら?」

とその方が言うから私の気持ちを見透かされたような気がして、「え、分かるんですか?」と聞き返してしまった。

「長いことこの商売をしてるとね、時々ふらっとそういう人が来るから分かるのよ。本当にお花を求めてくる人は花を選んですぐに帰ってしまうけど、心の安らぎを求めている人は、一つ一つの花をじっくり眺めていくもの。」と笑った。

たしかに。
私はお花を買いに来たっていうよりは吸い込まれるように、気が付いたら入ってたって感じだもん。

「すいません。お財布置いてきちゃってて……」

私が申し訳なさそうに謝ると、その方は慌てたように、

「違うのよ。買う、買わないはどうだっていいの。私はね、花を買ってくれるのはもちろん嬉しいけど、なんでもいいから下さいって言われるより、一つ一つじっくり眺めてその花が美しく咲いているのを見てもらう方がよっぽどいいなって思ってるから。買わなくてもいいのよ。」と言ってくれた。

そうだよね。日常で花はたくさんあるけど、それらをじっくり眺めて、その花がどう咲いているのかをじっくり見ている人は少ない気がする。

大切な人に贈るための花束を買っても、一つ一つ形や色合いの違う花があるって事を意識して買う人はほとんどいないだろうから。

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