想い花をキミに
「私、やっぱり今日は帰らなきゃ。」

咄嗟に出たのはそんな言い訳だった。

さっき今日は帰らなくても大丈夫と伝えていたせいで、「今日は帰らなくてもいい日なんじゃないの?」とでも言いたそうな隼太の瞳が怖くて、急いで上着と鞄を手に取った。

だけど部屋を出る前に、

「ダメだ。」

隼太がそう言って私の腕を掴んで離さなかった。

そしてそのまま私をリビングの床へ押し倒すと、逃さないと言うかのように私の上に覆いかぶさり激しく私を求めた。

それはとても悲しい愛の交わりだった。

行かないでくれと懇願するように隼太の瞳には悲しみが溢れていた。
隼太に触れることが、隼太に触れられることがこんなに悲しいと感じたことはなかったから私の胸も苦しくなった。

私たちは冷蔵庫が半開きになっている事を知らせるアラームが鳴り響いているのにも気が付かないほど、悲しい愛を確かめ合った。


全てが終わり乱れた洋服を着直す私たちの間に会話はない。
これが最後なんだと思うたび、洋服を着る手にうまく力が入らない。

「じゃあ、後で荷物取りに来るね。」

そう告げた言葉に返事はなく、彼はただ床に座って一点を見つめているだけだった。
彼の言葉を待つことなく私は家を出た。
外はまだ夜が明けてないために暗く、白い息がはっきりと出るほどに肌寒かった。

まだ雪は降っていないけど、もうそろそろかなと言う気がする。
良かった、と私は思った。

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