想い花をキミに
「そっ、か。」

それだけ言うと私は荷物をまとめだした。
隼太はそれをただ見ているだけ。
集めてみると思っていた以上に私の物が多くて、こんなに私の居場所があったんだと改めて実感した。

でも、運び出してしまうとこの部屋から私の存在はなくなってしまう。
そしたら余裕ができたこの場所に例のご令嬢さんの私物が来るのかなと思ったらなんだか悔しくなってきて、何個か置いて帰ろうかなとも思ったくらい。

それくらい私の中にはまだ隼太への未練が残っている。

この部屋に残る全ての隼太への想いをかき集めて、私は荷造りを終えた。
これで全部だと思う。
結局、わざと忘れ物をするのはやめた。

だってここへ来たご令嬢さんがそれを見つけた時に、隼太が責められるのは可哀相だと思ったから。

一通り部屋の中を眺め、大好きだったこの場所の雰囲気をかみしめる。

「終わった?」

そんな私を見て隼太が聞いてくる。

「うん。」

別れの時間が近づいていた。
このまま笑顔で別れよう、そう思ったのに──、


「どうしても別れなきゃだめか。俺は亜砂果と別れるくらいなら後継者になんてならなくていい。」

最後の最後まで隼太は私の気持ちを揺さぶってくる。

「そんなこと私は望んでないよ。」

そんな彼の想いを冷たくはね返す。

「どうしても別れるって言うのか。」

弱く掠れた声。その声を聞くだけで私は彼を滅茶苦茶に抱きしめてしまいたい衝動に駆られるというのに。

「そうだよ。私たちは住む世界が違いすぎたの。」

その衝動を必死で押さえこみ、悪い女を演じるの。
大切な隼太をこんなに傷つけている私はこの先一生幸せにはなれないだろうという思いがこみ上げる。
その覚悟を背負いきれないまま、私は次々と彼の心にナイフを突き立てた。

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