想い花をキミに
時々新聞とかで隼太が病院の若き後継者として取り上げられているのを目にしたけど、そのたびに胸が苦しくなって、私の傷はまだ癒えていないんだということを教えてくれる。

隼太と別れたことを伝えた日から、あの人はネチネチと「せっかくの玉の輿を無駄にしたって。」と嫌味を言っていたな。
でも私と一緒にならなかったことで隼太があの人からお金をむしり取られる姿を見なくて済むんだから、そう考えると別れて正解だったなって思うの。

きっとこれで良かったんだよね。

あれ以来新しい出会いなんてのは全くないし、あったとしても隼太以上に好きになれる自信がないから、私はずっと独りだった。

すれ違うカップルを羨ましく思いながら、時の流れの早さを実感する。
今年ももう少しで終わるんだ。
少し肌寒い風が、夏の終わりを告げていた。

「さむっ」

秋風の冷たさを肌で感じながら私は専門学校の帰り道を、バイト先へと急ぐ。

今日は本屋の後にファミレスのバイトが深夜まで入っている。
ちょっときついけど生活のために頑張らないと、と自分に言い聞かせた。
だけど、最近は学校の試験も近いためあまり睡眠時間をとれてなくて身体がなんとなく重かった。

「今日は終わったら早く寝よう。」

早歩きでバイトに向かう途中、ふと道端のある光景に目がとまる。

あ、ダイヤモンドリリーだ。

誰かが丁寧に手入れをしているのか、道の端にある花壇にはダイヤモンドリリーが咲き乱れていた。

「もうそんな季節か。あ、いけない！遅れちゃう。」

もう少しその花を見ていたいと思ったけど、バイトの時間が迫っていたから私は急いでその場を後にした。

そうして何とか二つのバイトを乗り切ってぐったりしながら歩く帰り道──、
突然意識が遠のく感じがした。


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