想い花をキミに
点滴が終わり病院を出るともう朝の7時手前だった。
一度家に戻ってシャワーを浴びて学校に行こう、そう思いながら外へ出ると──
前から一人の男性が歩いて来るのが見えた。

その時、私の周りの全ての時間が止まったような気がした。
音も景色も人の動きでさえも全てが音を失い、動きをなくす。
目に映るのはその姿だけ。

その男性もこちらに気が付くと、ピタッとその歩みを止めた。

お互いの視線が交わった瞬間、離れていた3年という時間の早さを私はあっという間だと感じた。

彼は私を見ると、一瞬驚いたような表情をしたけどすぐに、「亜砂果?久しぶりだな。」と笑いかけてくれた。

「ひ、さしぶり。」
驚きすぎて声が詰まる。

「元気だった?」
隼太が近づいてきて私の前で立ち止まる。

3年ぶりに見た彼は少し痩せていて、背もちょっと高くなったように見えた。
スーツを着こなしている姿が大人っぽさをグッと引き立てている。
だけど笑い方とか優しい雰囲気は以前と全然変わっていなくて、なつかしさがこみ上げた。

亜砂果、と呼んでくれたことが嬉しくて顔がほころんだけど、慌てて「元気だよ。そっちは?」って質問してごまかした。

「俺も元気だよ。毎日忙しくってこんな時間の出勤だけどな。」
と笑った。
隼太は医学部に通いながら父親から病院経営を学んでいるそうだった。
今は経営を学ぶためにわざわざここまで来ていたみたい。

「亜砂果はなんでこんな所にいるの?もしかして病気か?」
と深刻そうに隼太が言うから急いで「違うよ!風邪ひいただけ。」とごまかした。

「そっか。」と安心した様子で彼が胸をなでおろし、「じゃあ行くからまた。」と言うと彼は病院の中へと入って行ってしまった。

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