想い花をキミに
疲れてるはずなのに歩かせちゃった。

嬉しいはずの帰り道がなんとなく罪悪感でいっぱいになってしまい、途中で私は「もう近いからここまででいいよ!ありがとね。」と彼に伝えた。
本当はもう少し一緒にいたかったけど。

「分かった。じゃあまた」

と言い、隼太はくるっと向きを変えると、来た道を戻っていった。

その後姿を少しだけ見送ってから私も向きを変えて歩き出そうとすると、

「亜砂果!」

と不意に名前を呼ばれて足が止まる。
急いで振り向くと、先に立ち止まってこちらを振り返っていた彼が

「今度の土曜日どっか行かない?」

思いがけないデートのお誘いだった。


──迎えた次の土曜日。

「行く!行きます!」

突然の誘いを二つ返事で承諾した私は、その日から浮き立つ気持ちを抑えきれずに毎日着ていく洋服や髪型、メイクを考えていた。

そんな私をみて下宿先のおばちゃんは「最近楽しそうじゃないの。良かったわね。」って喜んでくれた。

私、今楽しそうに見えるのか。だって楽しいもん。
いつも着ている服とは全然違う、気合入った恰好。
このタイトスカートは今日のために昨日買ったの。
それにメイクだって、こんなにばっちりアイラインを引いたのは久しぶりだもん。

メイクが崩れていないか手鏡で念入りに確認したところで、「よし!完璧。」とパタンと鏡を閉じた。

メイクをして男の人と会うってこんなにワクワクするんだな。
忘れかけていた胸のときめきがよみがえってくる。

ルンルンと鼻歌交じりに歌いながら、私は待ち合わせの駅へと向かった。

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