想い花をキミに
とめどなく流れゆく涙を彼は親指で払うと、

「突き放す方がよっぽど辛かったろ。ごめんな」

と言って「ちゃんと分かってるからもう泣くな。」と優しく私の頭を撫でてくれた。

それから私が落ち着くと、

「亜砂果の試験が終わったら、色々と準備しなきゃいけないことがあるんだ。亜砂果の人生が大きく変わることになるけど、俺がついてる。だから変わっていくことを怖がらないで受け入れてほしい。」

と彼は言った。

今の質素だけど穏やかな生活から、豊かな財に恵まれてはいるけど厳しい経済争いが繰り広げられる世界へと飛び込むことを言ってるんだと思う。

「うん。隼太がそばにいてくれれば、大丈夫だよ。」

泣きながらも、彼に大丈夫だというところを見せたくて頑張って笑った。

「無理して笑うなよ。これからは、苦しい時はちゃんと言うって約束してくれ。」

「分かった。ちゃんと言う」

「ああ。絶対だからな。」


こうして慌ただしく私の今年が終わりを告げ、新たな年を迎えようとしていた。

それから、クリスマスにもらった指輪のお返しをしたいと言った私に、隼太は自分の洋服の袖をまくってそこにつけてある腕時計を見せてくれた。
それは私があの卒業式の日に彼の自転車へ置いてきたものだった。
これからの時間を大切にいきて欲しい、そんな願いを込めて腕時計を贈ったの。

「まだ持っていてくれたんだ」と懐かしむ私に、「これのおかげで今日まで頑張ってこれたから、ありがとな」って隼太は笑いかけてくれた。


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