想い花をキミに
「遅くなりまして、申し訳ありません。只今紹介にありました、宮元家長男の宮元隼太です。」

鮮やかなグレーのスーツを身にまとい、颯爽と現れた彼は、アナウンス係からマイクを受け取ると、しっかりとした足取りで来賓の前へと進み出た。

「遅くなってしまい誠に申し訳ございませんでした。」

と頭を下げた隼太の後ろで、ほっと肩をなでおろした彼のお父さんの姿が見えた。

「この度はこのような披露宴を開いて下さり、心より感謝申し上げます。」

台本にあるかのような祝いの言葉を並べていく隼太。
私は今度こそ何かが起こるのかなとそわそわしていたけど、隼太の挨拶でも何も起こることはなかった。

「あれ、どうするんだろ」

首を傾げながら披露宴の成り行きを見つめていると、今度はアナウンスから「続きましては、宮元隼太様とその婚約者、大河原財閥ご令嬢のご紹介をさせて頂きます。」という案内が入った。

え?結局ご令嬢の紹介もしちゃうの?
そしたら本当に婚約発表になっちゃうじゃんか。

ざわつく気持ちを抑えながら、私は奥歯をグッとを噛みしめた。

そして視線は再び自分の足元しか見えなくなった私の耳に、同じ声でアナウンスが響いた。

「では、宮元隼太様は前へとお進み下さい。続いて、婚約者様の、大河原財閥ご令嬢、清宮亜砂果様は前へお進み下さい。──、ん?清宮?」

私の耳にもはっきり聞こえた。

大河原財閥と言ったはずなのに、読み上げられたのは自分の名前だったっから。

台本を読み上げた当の本人も、財閥名と実際の読み上げた苗字が違うことに気づいて慌てふためいている。





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