想い花をキミに

1時間前──

私は自分の部屋で静かに本を読んでいた。
いや、正確には本を読むふりをしていたの。

私の意識は本の内容じゃなくて、ドアの向こう側から聞こえる荒々しい物音と、
時々それらにまじって聞こえてくるあの女のいらだった声に注がれていたから。

「またか。そろそろかな。」

私の想像通り、荒々しい物音がこっちへ近づいてくるのが分かった。
そして、

「何してんのさ。」

ツンと鼻をつくアルコールの嫌なにおい。赤い口紅を塗ったその女が黒くて長い髪を振り乱しながらドアを開けて中へ入ってくる。その目は今日も怒りに満ちていて──私の前まで来るとその女は一旦立ち止まって、私を蔑むように見下ろした。

これが私の継母。

小さい時に両親が亡くなってから、親戚の少なかった私は血のつながりもほとんどないようなこの女に引き取られた。

最初は両親の遺産が手に入るからと喜んで私を受け入れたみたいだけど、その遺産が思ったよりもずっと少なかったせいでこの女はずっと私のことを疎ましく思っている。

お酒に酔うといつもきまって「あんなはした金の為にあんたなんか引き取るんじゃなかった。」って言うから。

「本、読んでる……」

持っていた本の背表紙を握る手にぎゅっと力がこもる。

「のんきに本なんか読んでんの？へえー、気楽なもんね。」

「あの、ごめんなさい...えっと、お水飲む？」

私は少しでもこの女と距離を取りたくて、水を取りに行こうと立ち上がった。

その時──、

右の頬に鋭い痛みが走った。

すぐにこの女が叩いたんだってことは理解できた。これはいつものこと。
だけど今日はそれだけじゃおさまらなくて、

「あんたがいるってわかった瞬間、あの男別れるって言いだした！結婚しようって言ってくれてたのに。あんたさえいなかったらあたしはもっとまともに生きてたのに！！」

それからもあの人が私を殴り蹴る行為は止まらなかった。