想い花をキミに
「うん。部屋はこっちなの。」

私は自分の部屋のドアを開けて中に入る。

乱れたままのベッド。かすかに残っているようなツンと鼻をつく嫌な匂い。
私は数日前、ここで襲われかけた。
あの時の記憶がよみがえってきて、急に怖くなった。
肩が震えだし、呼吸が速くなる。

すると突然、「大丈夫。俺がいるから。」と隼太が優しく私の手を包み込んだ。

「必要なものを持って早く帰ろう。」

不思議と隼太に触れると震えがおさまっていく。
急いで私は必要なものだけをスーツケースに詰め込んだ。
そんなに多くは必要ない。

「とりあえずこれで大丈夫そう」

「そっか。じゃあ戻ろうか」

「うん」

簡単な荷造りを終えて家を出ようとすると、外から大嫌いなあの人の声がした。

「どうしよう、あの人が帰ってきた！隠れて！」

私たちは玄関から靴を持って私の部屋に戻ると、壁に背中をつけるように並んで座りこんだ。
何も知らないあの人は、また別の男を連れており、帰ってくるなりリビングでいやらしい声をあげ始めた。

聞きたくない。
気持ち悪さがこみ上げてきて、両手で耳を塞いだ。
私の行動を見ていた隼太は、そっと私の頭を引き寄せると、片手で私の耳を塞ぎそれが終わるまでぎゅっと抱きしめていてくれた。
私の耳には隼太のゆっくりとした鼓動の音しか聞こえなくなった。

私たちはあの人達が出ていくまでずっと、そうして寄り添っていた。
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