想い花をキミに
しばらくすると、あの人は男を連れて出て行った。

「行ったみたいだな。俺らも出るか。」

「うん。」

スーツケースを持って車に乗り込んだ時も、療養室に帰ってからも、私たちはしばらく無言だった。

「ごめんね。」

申し訳ない気持ちでいっぱいになって、咄嗟に謝罪の言葉を口にしていた。

「だから、亜砂果が謝ることないんだよ。俺は平気だからそんな顔すんなって。」

「でも、ごめんね……」

あんなのがたとえ義理でも母親だなんて恥ずかしい。

「それより気になってたんだけど、亜砂果の本当のご両親って何をやってた人?」

「んー、お父さんは確かどこかの田舎町のお医者さんだったって聞いたことあるよ。お母さんは看護師でお父さんを手伝ってたんだって。」

「そっか。」

「どうして?」

「いや、気になっただけ。」

何かを考えているような隼太の表情が気になったけれど、それ以上は聞かなかった。

それから私たちは一緒に課題をやったりゲームをしたりして残りの冬休みを過ごした。
隼太も療養所に泊まってくれて、ほとんどの時間を二人でいた。

時間を重ねるごとに自然と距離が近づいていき、付き合うまでに時間はかからなかった。
二つのベッドをくっつけてその上に寝そべっていた時、隼太が突然「俺と付き合わないか。」と切り出したの。
初めての告白に心臓が張り裂けそうなほど高鳴る。

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