想い花をキミに
「えっ?」

と驚く私に、「だってさっき私が声をかける前の亜砂果ちゃん、とっても怖い顔をしてたわよ。」

と笑いながらも、優しい眼差しを向けてくれるおばさんに、つい甘えたくなってしまう。

言葉に詰まる私に、

「もし時間があるならちょっと家に寄って行かない?」

そう言われて、久しぶりに私はお世話になった療養所兼あばさんの自宅へと来ていた。
おばさんはテーブルに紅茶と甘いお菓子を用意してくれて、「はい、遠慮しないで食べてね。」と言って自分もそのお菓子を頬張りだした。

「はい、ありがとうございます。」

私もその中の一つを手に取ると、口の中へ入れた。
とろけるような甘さに気持ちも少し落ち着く様な気がした。

「隼太はね、昔はよく笑う子だったのよ。」

お菓子を食べていた私は突然おばさんが話し出したことでその手を止めた。
あまり聞いたことのない彼の過去。
ご両親の離婚の事は知ってたけど、どんな幼少時代を過ごしていたのかは知らなかった。
だから私は興味津々で、おばさんの言葉に耳を傾けた。

「自然が大好きで、休みの度に外に出て遊びに行ってたわ。それでよく泥だらけになって怒られたりもしてたわね。ご両親が多忙だったこともあって、ほとんど一緒に遊んでもらえなかったみたいだけど、あの子は小さいなりに両親の事を考えて寂しくない振りをしていたの。でもね、ある時私の所へ来て泣いた事があったわ。一回だけだけどね。"僕もお友達みたいにお父さんとお母さんと一緒に遊びたい。お友達のお医者さんのお家はいつも幸せそうなのに、どうして僕のお家はそうじゃないの?"ってね。私その時はもう悲しくて悲しくて、そんなことないのよって言ってあげることしかできなかったわ。」

と、その時の隼太がそこにいるかのような目で私を見つめた。
< 65 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop