想い花をキミに
「あ、ちょっと待って。」

「え?」

「ごめん一回降りて。」

「うん。」

ぎこちなく首に腕を回した私をおぶって歩き出したと思ったら、突然彼が立ち止まるからどうしたんだろうと不思議に思っていると、

彼は自分の上着を脱いで私に背中を向け直すと「はい、乗って。」と私を背負った上から自分の上着をかけてくれた。

「あ、ありがとう。」

彼がさっきまで着ていた上着に残る温かさが背中から伝わってきて、そのわずかな温もりでさえすごく温かいと感じられた。

小さな声でお礼を言う私に「ほんと変な女拾っちまったな。」と彼がまた笑ったの。

ちょっと口が悪いけど優しい人。

第一印象はそんなところ。


その公園から歩いて数分のところに彼の住んでいるアパートはあった。

「下りるよ」と言った私に「いい、乗ってて」と彼が言い、私をおぶったまま玄関へと続く階段を登り始めた。そして、玄関の施錠を外して扉を開けて初めて、私は彼の背中から下りることができた。

「ごめんね。重いのにありがとう。」

「全然余裕。」

申し訳ない気持ちの私とは反対に、涼しい顔で答えた彼。

開かれた扉から中を眺めながら、本当に入ってもいいのか少し戸惑う。

「一人暮らしなの?」

「そーだよ。はい、どーぞ。」

中々入ろうとしない私を彼は紳士のように扉を押さえて待っていてくれたけど、

「入れないよ。足、こんなに汚れてるから...」

と、私は血と雪で汚れた足元に視線を落とした。

初めて会った人の家を、こんな雪と血で汚れた足で汚すわけにはいかない。

そう思って渋っていた時、

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