想い花をキミに
言葉では無理だった。
上手く伝えられる自信がなかったから。

隼太の頭に腕を回し、けして離れないようにしがみつきながら何度も唇を重ねた。
失いたくない思いが溢れる。

唇を重ねた時の勢いが強すぎて口の中に鉄の味が広がったけど、それでも私は隼太を離そうとはしなかった。

「おい……あさ、か、ちょっと待てって!」

隼太が勢いよく私の体を引き離した。
途端に感じられなくなる温もり。二人の間にできた距離。
残ったのは口の中に広がる鉄の感じだけで、それがとてつもなく悲しく感じられた。


「亜砂果……?」


私は口元を抑え、声を押し殺すように泣いた。
切れたのは私の唇だった。

突然キスしたかと思うと突然泣き出すもんだから、隼太は訳が分からなかったと思う。

「離れて行かないで……」

そう繰り返しながら隼太の胸元でわあわあ泣く私を、彼は泣きやむまでずっと抱きしめていてくれた。

しばらくして落ち着いた私に隼太は「なんで俺が離れていくんだよ」って不思議そうに聞くから、「行かないで……」ってまた泣いた。


「びっくりした。亜砂果でもああやって泣くことあるんだな。」

隼太の胸に寄りかかっている私の頭を片手で撫でながら彼が意外そうに言った。
たしかに。隼太の前で泣いたことなんてなかったかもしれない。

「弱そうなのに気持ちだけは強がって甘えてこないから、泣くこともないのかなって思ってた。」

「私にだって、泣くことくらいあるよ……」

「そうだな。」

隼太の鼓動の音を聞いてると気持ちが落ち着いてくる。
それから、「バイトのこと黙ってて悪かった。」と彼が謝った。
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