うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
1鬼門認定の先輩
お局様じゃなくても目を光らせて、何か口を出せることはないかと、手ぐすね引くように見てる人はいる。
それが教育係でもなく、上司でもなかったら、何で?
世話好きの先輩?
でも、私だけに。
もしかして、嫌われてる?
ただの、そう言う意味では無関係の先輩なのに、もう何度も注意された。
よく聞いたら教育係の先輩の教育係だったらしい。
無関係ではなかったらしい。
でも、そんな関係は続くの?
しかもいい先輩と聞いてるし、同期の誰もその先輩を悪く言わない。
私がそんなにうっかりとぼけてるか、まぁ、注意されることはちょっとだけもっともと思ったりするけど、でも言い方が。
もっとねぇ。
最初はまだアドバイスと思ってた。
ありがたく聞いてもいた・・・・かも。
配属されたのが希望した営業だった。
若輩者でも、信頼されるように、大人っぽく落ち着いて見えるように、そう思って見た目の仕上がりを意識してたのに。
それが普段の私からはとても地味だと思える感じだとしても。
実力が伴うまで、それまではと思ってた。
歓迎会でビールをつぎに行って挨拶して回った。
課内の雰囲気は明るくて仲が良いと思う。
この時代に・・・・なんて思うことなく、日ごろの感謝を込めて、満面の笑顔で順番にビールを持って回った。
「石橋さん、お疲れ様です。」
横に行って、自分のグラスも持って返杯も受ける気満々で。
何人目だか分からないけど、そんな感じで挨拶して来たのに。
まさか・・・・。
一言。
「メイク濃いよな。」
彼氏にだって言われたことがない一言。
スッピンとそんなに変わらない!と本人は思ってるし、特に仕事ではそんなに作りこんでもいない。色目も地味に落ち着いてるブラウン系だし、ラメは入れてない。バサバサ音がするくらいのマスカラもない。
チークだって薄めに。唇だって、目立つほどじゃない、てかてかともぬらぬらともしてない。
就活の時よりは少し、だけど・・・。
よろしくお願いしますと言って挨拶した笑顔の私に、それ?
張り切って大人感を演出してたのに。
なんだかやる気も自信もぺしゃんこになる一言。
でもそんな一人の言葉につぶされる私じゃない!!
だって絶対違うって自分で思ってる。
そっちが単にスッピンの女が好きなだけでしょう。
そんなオジサンの価値観を押し付けられても迷惑!!
その手のグラスのビールを取り上げて、振りかぶって顔に掛けたくなったほど、なんて無礼な奴!そう思った。
ただ幸運なことに、すぐに隣りにいた先輩が言葉を挟んでくれた。
「そんなこと全然ないよね?むしろもっと明るい色も似合うのに。」
思わず体ごとあからさまなまでに向き直り、手にしたビールを注いだ。
「ありがとうございます。お疲れ様です。」
順番に回ってたけどそのまま一人飛ばした形になった。
だって、当然です。・・・・挨拶はしました。私は・・・・。
隣の人がいてくれて、そう言ってくれたので私の怒りは冷却された。
ササっと忘れて、笑顔を取り戻せた。
良かった。
配属早々伝説を作るところだった。
歓迎会で先輩にビールをかぶせた新人・・・。それは勘弁です。
忘れたつもりだったのに、月曜日の朝、鏡を見ながら思い出してしまって。
さらに少し抑えた。
ちょっと気になったから。
さらに地味になった私に言った本人が気がつくはずもない。
それは別にいい。
鬼門。
直接関わることはないから、近寄らなかった。
実際、教育担当が決まり挨拶をした嵯峨野先輩は優しい人で、ホッとした。
そう、皆だいたいいい人。
圧倒的に男性が多い、同期も男性だけ。
そんな新人の中、地味な雰囲気の私は紅一点と呼ぶ程の花にもならない気がしてた。
仕事を頑張りたい私は、ちょっとだけ女性としてはマックスじゃなかった。
同期の三人とは仲良く出来ていて、普通に飲みに行く。
時々これでいいのか?と思わないでもない、完全割り勘、多少のエロ話にもついていき、はじめっから特別な女扱いはない。さらにお酒で言うなら一番飲めるかも。
普通の居酒屋で、本当にまったくの仕事仲間としてで、その扱いには遠慮ももてなし感もない。
まぁ、いい。楽しいからいい。
そんな三人は例の石橋さんに口出しされることもなく。
普通に先輩後輩としてしか会話してないらしい。
あっさりとして、スマートだと言う評価すら得ていて。
・・・・やっぱり私だけだったらしい。
2
ある日、営業先から嵯峨野先輩と帰って来た時。
「資料は余裕を持ってだけど、流石に急に五人分はないよな。」
「はい、前の時も急でしたよね。」
「だからちゃんと余分に持ってたのにね。まあ、あれくらいでいいよね。」
「どうした?」
その声に自分の肩が少し硬く緊張した。
・・・よりによって。
「ああ、石橋さん、お疲れ様です。三和さんのミィーティング、よく人が増えるんです。この間のアドバイス通りきちんと余分に資料用意してても、それを越えるんですよね。」
アドバイス・・・・・、あれはアドバイスだった?
怒られたと思った私だけど。
「で、どうした。」
そんな事を考えていた私に話がふられた。
どういう対応をしたのかと聞きたいらしい。
「自分たちの分を足しても足りなかったので、はい、お隣の人と仲良く見ていただきました。」
「仲良くとか言ってないだろうな。」
ええっ、そこ?
言った気もする。
だって何度も打ち合わせを繰り返してて、すっかり馴染んでて構えずにいられるし。
そんな雰囲気だし、だから・・・言った、かも。
別に向こうだって、急にすみませんとか言ってたし、大丈夫ですって、笑顔で・・・・。
まだまだ打ち合わせが初めの頃のこと。
資料が足りなかったねと嵯峨野さんと同じように言い合ってた時に、乱入してきた石橋さん。
その時は余分に持っていくのが当たり前だと嵯峨野さんが怒られて、資料を用意した私も余計に怒られた気になって、二人で謝り反省したたのに。
どう考えてもアドバイスというより、怒られた、良く言って注意された、二人まとめて教育的指導だった。あの時は嵯峨野さんにも申し訳なくて。
だからいつ、いかなる相手でも、資料は余分に持っていくようにしてた。
二度と口を挟まれないように!
それなのに、・・・むこうが悪いのに。
想定外の参加者増員だし・・・・。
そして、やっぱり仲良くとか言ったと思う。
そして今回怒られたのは私の言葉遣い。
あんたは何?
はい、先輩です。
だからといって、と言いたいけど、そんなことはうつむいたままで思うだけ。
顔をあげて言うしかない。
「気をつけます。」
メイクだって気を付けてます。
言われたことはちゃんと自分でも考えています。
なんとか絞り出した言葉でおしまいにした。
視線の鋭さは気をつけようと反省した意志の強さの反映だと思ってもらえただろうか?
恨みつらみのこもった嫌悪の目と思われたかもしれないけど、しょうがない。
隠せてないかもしれない。
今後近寄らないで欲しい。
私からは絶対近寄らないから。
一応言われたことは気をつけよう、・・・・だけど明日からだ!
そのままトイレに行って思いっきり『ダメ』な言葉遣いで文句を言った。
何なの、何なの、何なのよ~。
何で私の指導係でもないのに・・・。
勝手に割りこんでくる意味が分からない。
だいたい新人が自信持てるようにサポートして、支えて押し上げるように育ててくれてもいいじゃない・・・なんてゆとり世代の教育方法を押し付け甘えたくもなったりしたけど・・・。
注意と教育的指導とアドバイス、どれにしたって言い方があるじゃない。
私だっていろいろ改善はしてるし。
言いっ放しでそんな事見てもいないでしょうけど。
メイクや資料のことだけじゃない。
もっといろいろ言われてる。
作った資料についても関係ないはずなのにダメだしされたり、上司への報告の仕方が悪いとも言われた。簡潔に要領をまとめてから報告しろと。
たまたま横で聞いてただけじゃない。
報告した上司には伝わったのに。
廊下で同期の二人と話をしてた時に睨まれたこともある。
お昼に冷蔵庫から自分のヨーグルトを取り出そうとしたのに、姿を見て回れ右してトイレに方向をかえようとしたのがバレて睨まれたこともある。
何で?ほんとに嫌われてるの?
何かした?
だいたい女性が少ないから、逆に頼りないって思われないように頑張ってるつもりなのに。他の人にはそんなことまったく言われないのに。
ブツブツと般若のような顔で繰り返して、少しすっきりして席に戻った。
敵の陣地が奥の奥で離れていて助かった。
それなのにタイミング悪く近くにいると口を出したいらしい。
けっ。
深呼吸して平和な自分の席に座る。
カレンダーに次回の打ち合わせの予定を書いて。
レポートを仕上げる。
そろそろ独り立ちになる。
ずっと先輩と回ってたから楽で安心だったけど。
少し不安はある、しょうがない。
確かにまだ指導が必要な新人だから。
でも他にも新人はいる、指導してくれる人は決まってる・・・・。
じゃあ、なんで?
それが教育係でもなく、上司でもなかったら、何で?
世話好きの先輩?
でも、私だけに。
もしかして、嫌われてる?
ただの、そう言う意味では無関係の先輩なのに、もう何度も注意された。
よく聞いたら教育係の先輩の教育係だったらしい。
無関係ではなかったらしい。
でも、そんな関係は続くの?
しかもいい先輩と聞いてるし、同期の誰もその先輩を悪く言わない。
私がそんなにうっかりとぼけてるか、まぁ、注意されることはちょっとだけもっともと思ったりするけど、でも言い方が。
もっとねぇ。
最初はまだアドバイスと思ってた。
ありがたく聞いてもいた・・・・かも。
配属されたのが希望した営業だった。
若輩者でも、信頼されるように、大人っぽく落ち着いて見えるように、そう思って見た目の仕上がりを意識してたのに。
それが普段の私からはとても地味だと思える感じだとしても。
実力が伴うまで、それまではと思ってた。
歓迎会でビールをつぎに行って挨拶して回った。
課内の雰囲気は明るくて仲が良いと思う。
この時代に・・・・なんて思うことなく、日ごろの感謝を込めて、満面の笑顔で順番にビールを持って回った。
「石橋さん、お疲れ様です。」
横に行って、自分のグラスも持って返杯も受ける気満々で。
何人目だか分からないけど、そんな感じで挨拶して来たのに。
まさか・・・・。
一言。
「メイク濃いよな。」
彼氏にだって言われたことがない一言。
スッピンとそんなに変わらない!と本人は思ってるし、特に仕事ではそんなに作りこんでもいない。色目も地味に落ち着いてるブラウン系だし、ラメは入れてない。バサバサ音がするくらいのマスカラもない。
チークだって薄めに。唇だって、目立つほどじゃない、てかてかともぬらぬらともしてない。
就活の時よりは少し、だけど・・・。
よろしくお願いしますと言って挨拶した笑顔の私に、それ?
張り切って大人感を演出してたのに。
なんだかやる気も自信もぺしゃんこになる一言。
でもそんな一人の言葉につぶされる私じゃない!!
だって絶対違うって自分で思ってる。
そっちが単にスッピンの女が好きなだけでしょう。
そんなオジサンの価値観を押し付けられても迷惑!!
その手のグラスのビールを取り上げて、振りかぶって顔に掛けたくなったほど、なんて無礼な奴!そう思った。
ただ幸運なことに、すぐに隣りにいた先輩が言葉を挟んでくれた。
「そんなこと全然ないよね?むしろもっと明るい色も似合うのに。」
思わず体ごとあからさまなまでに向き直り、手にしたビールを注いだ。
「ありがとうございます。お疲れ様です。」
順番に回ってたけどそのまま一人飛ばした形になった。
だって、当然です。・・・・挨拶はしました。私は・・・・。
隣の人がいてくれて、そう言ってくれたので私の怒りは冷却された。
ササっと忘れて、笑顔を取り戻せた。
良かった。
配属早々伝説を作るところだった。
歓迎会で先輩にビールをかぶせた新人・・・。それは勘弁です。
忘れたつもりだったのに、月曜日の朝、鏡を見ながら思い出してしまって。
さらに少し抑えた。
ちょっと気になったから。
さらに地味になった私に言った本人が気がつくはずもない。
それは別にいい。
鬼門。
直接関わることはないから、近寄らなかった。
実際、教育担当が決まり挨拶をした嵯峨野先輩は優しい人で、ホッとした。
そう、皆だいたいいい人。
圧倒的に男性が多い、同期も男性だけ。
そんな新人の中、地味な雰囲気の私は紅一点と呼ぶ程の花にもならない気がしてた。
仕事を頑張りたい私は、ちょっとだけ女性としてはマックスじゃなかった。
同期の三人とは仲良く出来ていて、普通に飲みに行く。
時々これでいいのか?と思わないでもない、完全割り勘、多少のエロ話にもついていき、はじめっから特別な女扱いはない。さらにお酒で言うなら一番飲めるかも。
普通の居酒屋で、本当にまったくの仕事仲間としてで、その扱いには遠慮ももてなし感もない。
まぁ、いい。楽しいからいい。
そんな三人は例の石橋さんに口出しされることもなく。
普通に先輩後輩としてしか会話してないらしい。
あっさりとして、スマートだと言う評価すら得ていて。
・・・・やっぱり私だけだったらしい。
2
ある日、営業先から嵯峨野先輩と帰って来た時。
「資料は余裕を持ってだけど、流石に急に五人分はないよな。」
「はい、前の時も急でしたよね。」
「だからちゃんと余分に持ってたのにね。まあ、あれくらいでいいよね。」
「どうした?」
その声に自分の肩が少し硬く緊張した。
・・・よりによって。
「ああ、石橋さん、お疲れ様です。三和さんのミィーティング、よく人が増えるんです。この間のアドバイス通りきちんと余分に資料用意してても、それを越えるんですよね。」
アドバイス・・・・・、あれはアドバイスだった?
怒られたと思った私だけど。
「で、どうした。」
そんな事を考えていた私に話がふられた。
どういう対応をしたのかと聞きたいらしい。
「自分たちの分を足しても足りなかったので、はい、お隣の人と仲良く見ていただきました。」
「仲良くとか言ってないだろうな。」
ええっ、そこ?
言った気もする。
だって何度も打ち合わせを繰り返してて、すっかり馴染んでて構えずにいられるし。
そんな雰囲気だし、だから・・・言った、かも。
別に向こうだって、急にすみませんとか言ってたし、大丈夫ですって、笑顔で・・・・。
まだまだ打ち合わせが初めの頃のこと。
資料が足りなかったねと嵯峨野さんと同じように言い合ってた時に、乱入してきた石橋さん。
その時は余分に持っていくのが当たり前だと嵯峨野さんが怒られて、資料を用意した私も余計に怒られた気になって、二人で謝り反省したたのに。
どう考えてもアドバイスというより、怒られた、良く言って注意された、二人まとめて教育的指導だった。あの時は嵯峨野さんにも申し訳なくて。
だからいつ、いかなる相手でも、資料は余分に持っていくようにしてた。
二度と口を挟まれないように!
それなのに、・・・むこうが悪いのに。
想定外の参加者増員だし・・・・。
そして、やっぱり仲良くとか言ったと思う。
そして今回怒られたのは私の言葉遣い。
あんたは何?
はい、先輩です。
だからといって、と言いたいけど、そんなことはうつむいたままで思うだけ。
顔をあげて言うしかない。
「気をつけます。」
メイクだって気を付けてます。
言われたことはちゃんと自分でも考えています。
なんとか絞り出した言葉でおしまいにした。
視線の鋭さは気をつけようと反省した意志の強さの反映だと思ってもらえただろうか?
恨みつらみのこもった嫌悪の目と思われたかもしれないけど、しょうがない。
隠せてないかもしれない。
今後近寄らないで欲しい。
私からは絶対近寄らないから。
一応言われたことは気をつけよう、・・・・だけど明日からだ!
そのままトイレに行って思いっきり『ダメ』な言葉遣いで文句を言った。
何なの、何なの、何なのよ~。
何で私の指導係でもないのに・・・。
勝手に割りこんでくる意味が分からない。
だいたい新人が自信持てるようにサポートして、支えて押し上げるように育ててくれてもいいじゃない・・・なんてゆとり世代の教育方法を押し付け甘えたくもなったりしたけど・・・。
注意と教育的指導とアドバイス、どれにしたって言い方があるじゃない。
私だっていろいろ改善はしてるし。
言いっ放しでそんな事見てもいないでしょうけど。
メイクや資料のことだけじゃない。
もっといろいろ言われてる。
作った資料についても関係ないはずなのにダメだしされたり、上司への報告の仕方が悪いとも言われた。簡潔に要領をまとめてから報告しろと。
たまたま横で聞いてただけじゃない。
報告した上司には伝わったのに。
廊下で同期の二人と話をしてた時に睨まれたこともある。
お昼に冷蔵庫から自分のヨーグルトを取り出そうとしたのに、姿を見て回れ右してトイレに方向をかえようとしたのがバレて睨まれたこともある。
何で?ほんとに嫌われてるの?
何かした?
だいたい女性が少ないから、逆に頼りないって思われないように頑張ってるつもりなのに。他の人にはそんなことまったく言われないのに。
ブツブツと般若のような顔で繰り返して、少しすっきりして席に戻った。
敵の陣地が奥の奥で離れていて助かった。
それなのにタイミング悪く近くにいると口を出したいらしい。
けっ。
深呼吸して平和な自分の席に座る。
カレンダーに次回の打ち合わせの予定を書いて。
レポートを仕上げる。
そろそろ独り立ちになる。
ずっと先輩と回ってたから楽で安心だったけど。
少し不安はある、しょうがない。
確かにまだ指導が必要な新人だから。
でも他にも新人はいる、指導してくれる人は決まってる・・・・。
じゃあ、なんで?
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