うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
3初めてアホとののしったけど
部長の赤ら顔がお開きの言葉を言って、終わりになった。
最後はいつものように同期で楽しんだ感じだった。
「また飲もうね。」
「ふらふらだよ~。」
輪島君が本当にふらつきながら言う。
「大丈夫?」
「やっぱり天野さん強いじゃない。まっすぐ歩けてる~。」
「輪島君、危ないなあ。無事に帰れる?」
「俺、方向一緒だし、送って行くよ。」
迫田君が横から支える。
「迫田君は大丈夫?」
「うん、輪島よりは平気。」
いつもの笑顔を見せられるけど、う~ん、何とも思わない。
「ねえ、天野さん、年上いいと思うよ。」
最後にまた言われた。
何が言いたい?
誰かを紹介したいとか?
訳わからないまま見つめた。
「また次の機会にね。」
何が?
「美弥ちゃん、酔ってない?大丈夫?」
先輩が帰って来た。
「はい、途中怪しくてお見苦しい所を披露してすみませんでした。今はすっかり大丈夫です。」
でも体がだるい、重い。
このまま何も考えずに寝たい気分。化粧もお風呂も面倒・・・。
ぞろぞろと駅に向かう一団。
早い時間に仕事を切り上げて始まったから、まだ時間はある。
駅前のコーヒー屋さんでちょっとぼんやりとしながらも頭をスッキリさせて帰りたい。
急がなくていいから電車も座って帰りたい。
それぞれが改札に吸い込まれていった。
同期三人も歩いている。
若干一名怪しいけど。
は~、やっぱり飲み過ぎた。
気分がいいのはきっと愚痴を言えたから。
ためこんでいた悪口という名の愚痴を言えた。
だって席も遠かったみたいだし、全体が盛り上がってて聞こえる心配もなかったし。
先輩に聞いてもらってスッキリした。
過去の彼女の生霊にずっと振り回されてしまえ~、なんてさっきまでの怪談話と愚痴が合わさった。
それでも後半は自分の女子力の低さも実感した。そこは悲しい気もする。
コーヒーを飲もうと歩きだした時、背後から名前を呼ばれてスッキリした気分のまま、凍った。
油断していた・・・としか言いようがない。
だってみんなサヨナラと言って改札で解散した。
たいていそのまま改札を入って行ったよね。
あえて見てなかったから知らない。
石橋さん、何でいるの?
振り向いて、正面に見ながら、身構えた。
それでも酔っていて、いつもよりは反応は鈍かったかも。
緩んでいた自分を引き締め、刺すような目で見たいのに、まだ酔いが抜けきらないから。
それに、どうして?何??という疑問が先に立つ。
まさか今からダメだし?
飲み会で酔いすぎとか、もしやお酒を注いで回れとか?
今まで言えてなかった日ごろの注意を今からするとか?
ついでに回れ右してた無礼を責められるとか?
勘弁だ、一歩後ろに下がる。
思わず小さな段差にヒールがかかり、フラッとしてしまって、慌てて態勢を立て直す。
目の前から手が伸びたけどつかまるなんて事しない、するもんか!
「すごく酔ってるんだろう?強いとは聞いてたけど、危なっかしい。」
なんだそれは?
酔うと悪いか、強いと悪いか、そんなにふらついてもないし、休んでから帰ろうとしてたのに。
そんな事は言い返せないが、やはり視線がきつくなる。
伝わっただろうか?
「酔ってるだろう。」
伝わらなかったらしい。
同じように聞き返されたが、決めつけられたとも言う。
話は分かりやすくするし、言葉遣いはきちんとする。
だが別に関係ないだろうという思いはある。
「はい。」
返事はその一言になった。
「じゃあ。少し休んで帰ります。お疲れ様でした。」
そう言ってお辞儀をして会話を終わりにしたつもりだったのに、やっぱり酔ってたから、頭をあげる時にちょっとだけふらついた。
「だから危ないって言っただろう。」
不覚にも腕をとられた。
柔道での『一本取られた』の『取られた』、そんな気分だった。
「少し酔いをさまして帰るつもりです。お疲れ様でした。」
もう一度繰り返したけど、お辞儀は止めた。
「いいから、危ないって言ってるだろう。」
勝負もないのにまた腕をとられた。
今度のとられたはなんだろう?
明らかに弱みを見せてしまった、隙を見せてしまった。
そんな感じだ。
グイッと引っ張られて歩き出した石橋さん、よろっと体がバランスを崩したけど、緩んだスピードに何とか体勢を持ち直した。
だから、何で?
どこへ?
すぐには聞けないまま。
数メートル進んで駅の改札前を通り過ぎる。
「ちょっと待ってください。何ですか?」
思ったより大きな声が出た。
周囲の視線を集めたらしく、ハッとして立ち止まった石橋さん。
腕は離してもらえた。
「ちょっと話があるから、付き合ってくれ。」
「月曜日以降じゃダメですか?今ダメ出しされても、覚えてないかもしれないです。時間の無駄です。」
「今日がいい、覚えてないなら何度でも言う、時間は無駄にはしない。」
そう言われて、やり込められた。
まさかの二次会が個人で説教タイム・・・、何で・・・勝手にトラウマを押し付けるな!!
それともそんなにダメなところが見えてるんだろうか?
俯いた自分はちょっとだけ自信を喪失し、しっかり掴まれた腕をひかれるままについて行った。
ショックで目も覚める。
出来るなら一度で勘弁してもらいたい。
ちゃんと聞いて、一度できっちり覚えてやろうじゃないか!
甘く見るなよ、何度も聞きたくはない、一度でちゃんと出来る!
どこに行くのかタクシーに乗せられて、行先を告げるのを外を見ながら、上の空で聞いていた。
指導者の嵯峨野さんは三年目。
三年目の達成目標に『後輩の育成』という項目があってもおかしくない。
だから嵯峨野さんのことを誰か評価する先輩がいてもおかしくない。
それが前の指導係だとしたら、そんな事もあるかもしれない。
だったら嵯峨野さんがいるところで面談でもいいじゃない?
嵯峨野さんもいない、無礼講の飲み会の後という今を選ぶ意味が分からない。
外は週末に向けて早々に家路に帰る人、解放感に浸り遊びに行く人、まだまだ満足できずにウロウロする人、いろんな人がいる。
なんで・・・・私だけ・・・・・。
行先を告げたあと、静かにタクシーは走る。
タクシーは滅多に乗らない。
営業先も駅から歩いて行ける距離で、タクシーを使うこともない。
一体どこを走ってるのか、暗いし、窓の外をぼんやり見てるだけでは分からない。
どのくらい走ったのか、やっと車内にラジオの音声以外の声が響いた。
「その先の信号を右にお願いします。・・・・そこです。・・・・二つ目の信号を行ってすぐのコンビニの前で結構です。」
到着らしい。
まったく払う気もないがタクシー料金を見た。
4千円は超えている。
どこに行くんだか。
思わずため息が出た。
聞こえただろうか?何となく見下ろされた気がした。
無視。
当たり前だ、今からありがたいダメ出しがあると思っても、酔った頭とお肉で満足なお腹が神妙にするわけがない。
ため息がうんざりしていると聞こえようが、まったく隠す気もなく。
タクシーがコンビニの前で止まった。
自分の方のドアが開いた、降りるしかない。
コンビニ、焼き肉屋、ラーメン屋、普通の家、動物病院、スナックらしきお店・・・・。
どこで説教を?
支払いを終えた石橋さんに促されてついて行く。
さっき見たお店のいずれでもない。
ここまで来て、私はどうやって帰ればいいんだ?
駅はどこ?
先を行く石橋さんが入ったのは普通のマンションに見える。
手にしたカバンから鍵を取り出す。
エレベーターに乗り、ある普通の部屋のドアの前にたどり着いた。
「ここだ。」
「ここはどこですか?」
当然の質問にきちんと返事はもらえた。
ただ、住所を言われた。番地まで、部屋番号も・・・もちろん合ってる。
「ああ、なるほど合ってますね、・・・・って言うと思ってるんですか?」
部屋番号のプレートを指しながら言い返した。
もはや言葉遣いはどうでもいい気がしてきた。
「そんな事じゃないですよ。ここは何の部屋なんだと聞いてるんです!アホですか?」
とうとう先輩をアホ呼ばわりしてしまった。
一瞬感情をぶつけた私に驚いた顔をしたのに、そのまま笑い顔になった。
「うるさい、近所迷惑だ。」
そう言って鍵をさしてドアを開けた。
声もなく笑ってるその顔は不快でしかなかったけど、さすがに騒ぐところじゃなかった。
ついつい。
アホ呼ばわりはいいらしい。
許されるならもっと悪態をつけばよかった。
言っていいならたくさんある。山ほどある。富士山もビックリなくらいある。
最後はいつものように同期で楽しんだ感じだった。
「また飲もうね。」
「ふらふらだよ~。」
輪島君が本当にふらつきながら言う。
「大丈夫?」
「やっぱり天野さん強いじゃない。まっすぐ歩けてる~。」
「輪島君、危ないなあ。無事に帰れる?」
「俺、方向一緒だし、送って行くよ。」
迫田君が横から支える。
「迫田君は大丈夫?」
「うん、輪島よりは平気。」
いつもの笑顔を見せられるけど、う~ん、何とも思わない。
「ねえ、天野さん、年上いいと思うよ。」
最後にまた言われた。
何が言いたい?
誰かを紹介したいとか?
訳わからないまま見つめた。
「また次の機会にね。」
何が?
「美弥ちゃん、酔ってない?大丈夫?」
先輩が帰って来た。
「はい、途中怪しくてお見苦しい所を披露してすみませんでした。今はすっかり大丈夫です。」
でも体がだるい、重い。
このまま何も考えずに寝たい気分。化粧もお風呂も面倒・・・。
ぞろぞろと駅に向かう一団。
早い時間に仕事を切り上げて始まったから、まだ時間はある。
駅前のコーヒー屋さんでちょっとぼんやりとしながらも頭をスッキリさせて帰りたい。
急がなくていいから電車も座って帰りたい。
それぞれが改札に吸い込まれていった。
同期三人も歩いている。
若干一名怪しいけど。
は~、やっぱり飲み過ぎた。
気分がいいのはきっと愚痴を言えたから。
ためこんでいた悪口という名の愚痴を言えた。
だって席も遠かったみたいだし、全体が盛り上がってて聞こえる心配もなかったし。
先輩に聞いてもらってスッキリした。
過去の彼女の生霊にずっと振り回されてしまえ~、なんてさっきまでの怪談話と愚痴が合わさった。
それでも後半は自分の女子力の低さも実感した。そこは悲しい気もする。
コーヒーを飲もうと歩きだした時、背後から名前を呼ばれてスッキリした気分のまま、凍った。
油断していた・・・としか言いようがない。
だってみんなサヨナラと言って改札で解散した。
たいていそのまま改札を入って行ったよね。
あえて見てなかったから知らない。
石橋さん、何でいるの?
振り向いて、正面に見ながら、身構えた。
それでも酔っていて、いつもよりは反応は鈍かったかも。
緩んでいた自分を引き締め、刺すような目で見たいのに、まだ酔いが抜けきらないから。
それに、どうして?何??という疑問が先に立つ。
まさか今からダメだし?
飲み会で酔いすぎとか、もしやお酒を注いで回れとか?
今まで言えてなかった日ごろの注意を今からするとか?
ついでに回れ右してた無礼を責められるとか?
勘弁だ、一歩後ろに下がる。
思わず小さな段差にヒールがかかり、フラッとしてしまって、慌てて態勢を立て直す。
目の前から手が伸びたけどつかまるなんて事しない、するもんか!
「すごく酔ってるんだろう?強いとは聞いてたけど、危なっかしい。」
なんだそれは?
酔うと悪いか、強いと悪いか、そんなにふらついてもないし、休んでから帰ろうとしてたのに。
そんな事は言い返せないが、やはり視線がきつくなる。
伝わっただろうか?
「酔ってるだろう。」
伝わらなかったらしい。
同じように聞き返されたが、決めつけられたとも言う。
話は分かりやすくするし、言葉遣いはきちんとする。
だが別に関係ないだろうという思いはある。
「はい。」
返事はその一言になった。
「じゃあ。少し休んで帰ります。お疲れ様でした。」
そう言ってお辞儀をして会話を終わりにしたつもりだったのに、やっぱり酔ってたから、頭をあげる時にちょっとだけふらついた。
「だから危ないって言っただろう。」
不覚にも腕をとられた。
柔道での『一本取られた』の『取られた』、そんな気分だった。
「少し酔いをさまして帰るつもりです。お疲れ様でした。」
もう一度繰り返したけど、お辞儀は止めた。
「いいから、危ないって言ってるだろう。」
勝負もないのにまた腕をとられた。
今度のとられたはなんだろう?
明らかに弱みを見せてしまった、隙を見せてしまった。
そんな感じだ。
グイッと引っ張られて歩き出した石橋さん、よろっと体がバランスを崩したけど、緩んだスピードに何とか体勢を持ち直した。
だから、何で?
どこへ?
すぐには聞けないまま。
数メートル進んで駅の改札前を通り過ぎる。
「ちょっと待ってください。何ですか?」
思ったより大きな声が出た。
周囲の視線を集めたらしく、ハッとして立ち止まった石橋さん。
腕は離してもらえた。
「ちょっと話があるから、付き合ってくれ。」
「月曜日以降じゃダメですか?今ダメ出しされても、覚えてないかもしれないです。時間の無駄です。」
「今日がいい、覚えてないなら何度でも言う、時間は無駄にはしない。」
そう言われて、やり込められた。
まさかの二次会が個人で説教タイム・・・、何で・・・勝手にトラウマを押し付けるな!!
それともそんなにダメなところが見えてるんだろうか?
俯いた自分はちょっとだけ自信を喪失し、しっかり掴まれた腕をひかれるままについて行った。
ショックで目も覚める。
出来るなら一度で勘弁してもらいたい。
ちゃんと聞いて、一度できっちり覚えてやろうじゃないか!
甘く見るなよ、何度も聞きたくはない、一度でちゃんと出来る!
どこに行くのかタクシーに乗せられて、行先を告げるのを外を見ながら、上の空で聞いていた。
指導者の嵯峨野さんは三年目。
三年目の達成目標に『後輩の育成』という項目があってもおかしくない。
だから嵯峨野さんのことを誰か評価する先輩がいてもおかしくない。
それが前の指導係だとしたら、そんな事もあるかもしれない。
だったら嵯峨野さんがいるところで面談でもいいじゃない?
嵯峨野さんもいない、無礼講の飲み会の後という今を選ぶ意味が分からない。
外は週末に向けて早々に家路に帰る人、解放感に浸り遊びに行く人、まだまだ満足できずにウロウロする人、いろんな人がいる。
なんで・・・・私だけ・・・・・。
行先を告げたあと、静かにタクシーは走る。
タクシーは滅多に乗らない。
営業先も駅から歩いて行ける距離で、タクシーを使うこともない。
一体どこを走ってるのか、暗いし、窓の外をぼんやり見てるだけでは分からない。
どのくらい走ったのか、やっと車内にラジオの音声以外の声が響いた。
「その先の信号を右にお願いします。・・・・そこです。・・・・二つ目の信号を行ってすぐのコンビニの前で結構です。」
到着らしい。
まったく払う気もないがタクシー料金を見た。
4千円は超えている。
どこに行くんだか。
思わずため息が出た。
聞こえただろうか?何となく見下ろされた気がした。
無視。
当たり前だ、今からありがたいダメ出しがあると思っても、酔った頭とお肉で満足なお腹が神妙にするわけがない。
ため息がうんざりしていると聞こえようが、まったく隠す気もなく。
タクシーがコンビニの前で止まった。
自分の方のドアが開いた、降りるしかない。
コンビニ、焼き肉屋、ラーメン屋、普通の家、動物病院、スナックらしきお店・・・・。
どこで説教を?
支払いを終えた石橋さんに促されてついて行く。
さっき見たお店のいずれでもない。
ここまで来て、私はどうやって帰ればいいんだ?
駅はどこ?
先を行く石橋さんが入ったのは普通のマンションに見える。
手にしたカバンから鍵を取り出す。
エレベーターに乗り、ある普通の部屋のドアの前にたどり着いた。
「ここだ。」
「ここはどこですか?」
当然の質問にきちんと返事はもらえた。
ただ、住所を言われた。番地まで、部屋番号も・・・もちろん合ってる。
「ああ、なるほど合ってますね、・・・・って言うと思ってるんですか?」
部屋番号のプレートを指しながら言い返した。
もはや言葉遣いはどうでもいい気がしてきた。
「そんな事じゃないですよ。ここは何の部屋なんだと聞いてるんです!アホですか?」
とうとう先輩をアホ呼ばわりしてしまった。
一瞬感情をぶつけた私に驚いた顔をしたのに、そのまま笑い顔になった。
「うるさい、近所迷惑だ。」
そう言って鍵をさしてドアを開けた。
声もなく笑ってるその顔は不快でしかなかったけど、さすがに騒ぐところじゃなかった。
ついつい。
アホ呼ばわりはいいらしい。
許されるならもっと悪態をつけばよかった。
言っていいならたくさんある。山ほどある。富士山もビックリなくらいある。