美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。

恵子の料理

白起に私の料理を食べさせる。
私は新しい目的のために準備を始めていた。
白起にばれると大変だが、白起の目を盗んでこっそりと、白起の陣営を出ると、料理人に会い、白起の食事についての話を聞いた。
幸いむこうは私を白起の愛人と勘違いしたらしく、丁寧に話をしてくれた。

私が調べた白起の料理の手順はこうだ。
白起は必ず食材を自分の前に並べさせる。
そして一つ一つ丁寧に確認し、少しでもあやしいと感じた食材は使わない。
その上で厳重に保管させているなべに食材を置き、一気に焼く。
つまり白起が恐れているのは毒殺なのだ。

そして更に良い情報も得た。
それは白起が昔は大食漢で有名だったという事だ。
白起が今の様な食事を始めたのは、将軍に就任した後、毒殺されそうになった事が原因だという。
そこで私は料理の設備を借り、白起と同様の手順で食材に毒が混入しないよう、水などにも注意しながら料理を始めた。
その上で、食材の選択や調理の仕方を工夫し、極力美味しそうなものを作った。
そして水餃子と野菜炒めが完成した。

私は味見して言った。
「よし。美味しい。あとは温かいうちに食べてもらわなくちゃ」

私は料理を持つと、急いで、白起の陣営に向かった。
陣営に入ると白起は酷く怒った様子で私の事を待っていた。

そして白起は言った。
「どこへ行っていた？外出は禁止していたはずだろう。」

私は言った。
「料理を作っていました。」

すると白起は恐ろしい剣幕で言った。
「なんのつもりだ？俺はいらないと言っただろう。」

私は白起の迫力に屈さず言った。
「毒が混入しないよう、あなたのやり方に従って細心の注意を払いました。私自身が毒を混ぜるような人間でないことはあなただって分かっているはずです。」

白起は言った。
「余計なお世話だ。こういう干渉は不愉快だ。それに外に出たこともいただけない。俺は食べないぞ。それは下げろ」

私は白起の言葉に驚かなかった。
なぜなら昔の私も多分母にこの様に言ったはずだからだ。
でもここで引くわけには行かない。

そこで私は笑顔で言った。
「それなら構いませんよ。私が全部一人で食べますから」

白起は驚いた様子で言った。
「その量を一人で食べるのか」

私は料理を机に置き、手を合わせるといった。
「凄く美味しそうですね。いただきます。」

そして私は料理を食べ始めた。
私の作った料理はこれまでとは比べ物にならないほど美味しかった。
私はそれを夢中で食べ続けた。
しかし、さすがに、白起の分まで全て食べきることは難しく、段々苦しくなって来た。

白起は呆れた様子で言った。
「おい。さすがにそんなに食べきれないんじゃないか？」

私は言った。
「平気ですよ。だって凄く美味しいですから。」

白起は私の事をじっと見ていた。
私は白起が見ている以上、引く事は出来ないと思った。
私は頭の中で、（美味しい、美味しい）と自分に言い聞かせながら食事を取り続けた。

白起はそんな私を見て不思議そうに言った。
「どうしてそこまで必死になる。たかが食事だろ」

私は笑顔で言った。
「食べるという事は生きるという事だからです」

私はむせそうになり、慌てて水を飲んだ。
するとその様子を見て、白起が笑い出した。
「お前は本当に面白いな。なんだか警戒していたのが馬鹿らしくなって来た。」

そして私の皿をとると言った。

「残りは俺に食わせろ。さすがにお前がここまで食べているんだ。毒が入っている事もないだろう」
「分かりました。」

白起は結局残りを全て食べてしまった。

私は空になった皿を見て言った。
「美味しかったですか？幸せな気持ちになりませんか？」

白起は目を合わせずに言った。
「さあな。だが料理を作ってくれた事には感謝する。」

そして白起は軍議があると言って出て行った。

「よし。やった。」

私は白起にばれない様に静かにガッツポーズをしたのだった。