美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。
第6章戦
戦のきざし
戦が近づいている。
その事は情報としては聞いていたけど、徐々に私達の生活にも大きな影響を及ぼし始めた。
端的に言うと、食事が喉を通らなくなったのである。
私はほとんど食事に手をつけない白起を心配して言った。
「大丈夫なの?」
すると白起は申し訳なさそうに言った。
「すまない。お前がせっかく作ってくれたのに。どうにも喉を通らないんだ」
私は趙で、聞いた噂話を思い出した。
趙の名将、趙奢は戦が近づくと、興奮して戦以外のことに全く関心がなくなり、家財や、家族にすら目もくれなかったという。
それに対して新しく趙の将軍となった息子の趙括は将軍となった後、家財道具の処理を始めた事から、趙奢の妻で趙括の母親である人物が、趙括を解任するよう王に嘆願したらしい。
それでいうと恐らく白起は趙奢と同じタイプだ。
むしろ、白起の方が過激である。
なにしろ、うちの白起は戦が近づくと、食事すら喉を通らないのだから。
きっとそれは正しいことだ。
将軍は判断を誤れば、味方を死なせることとなる。
判断に成功すれば敵の命を奪う事になる。
だから普通の人間はまともな精神が保てず自分に酔い、あるいは敵を憎んで、必死に現実から目をそらす。
しかし、天才は違う。
天才は現実を直視し、自分の責任を理解したうえで、決断をする。
私は、食事が喉を通らない事も白起の才能を示していると思った。
でも、それとこれとは話しが別である。
一緒に生活し、白起の健康を気遣う身としては少しでも何かを食べて欲しい。
私が考えた末に出した結論は白起を病人の様に扱うというものだ。
つまりは、飲み物、薬、お粥である。
そして実際、白起はある種、戦病という病気にかかっているとも言えた。
まず私は白起の飲み物としてお茶を選んだ。
この時代のお茶は、薬として扱われている。
そして、お茶には気持ちを落ち着ける効果があるから、多分興奮のし過ぎで交感神経がやられている白起には効果が期待できる。
かなりの高級品だが白起は将軍なので、なんとかこれを手に入れることが出来た。
そして私は白起の働く様子を観察しながら、時折、お茶を飲ませた。
飲み物兼薬である。
すると白起は少しだけ落ち着いた様子を見せるようになった。
また私は、昆布で出汁をとったお粥など、食べやくて温かい、香りの良いもので白起の食欲を誘った。
その事で効果があったのか、白起は少しずつ食事を食べるようになった。
しかし、戦が近づくにつれ、白起はそれも食べなくなった。
結局白起の戦病は不治の病だったのだ。
「すまない」
そう一言言い残し去って行った白起を見て私は思った。
この人はなんて生きづらいのだろうと。
それと同時に私は心から願った。
戦など、この世から無くなれば良いと。
その事は情報としては聞いていたけど、徐々に私達の生活にも大きな影響を及ぼし始めた。
端的に言うと、食事が喉を通らなくなったのである。
私はほとんど食事に手をつけない白起を心配して言った。
「大丈夫なの?」
すると白起は申し訳なさそうに言った。
「すまない。お前がせっかく作ってくれたのに。どうにも喉を通らないんだ」
私は趙で、聞いた噂話を思い出した。
趙の名将、趙奢は戦が近づくと、興奮して戦以外のことに全く関心がなくなり、家財や、家族にすら目もくれなかったという。
それに対して新しく趙の将軍となった息子の趙括は将軍となった後、家財道具の処理を始めた事から、趙奢の妻で趙括の母親である人物が、趙括を解任するよう王に嘆願したらしい。
それでいうと恐らく白起は趙奢と同じタイプだ。
むしろ、白起の方が過激である。
なにしろ、うちの白起は戦が近づくと、食事すら喉を通らないのだから。
きっとそれは正しいことだ。
将軍は判断を誤れば、味方を死なせることとなる。
判断に成功すれば敵の命を奪う事になる。
だから普通の人間はまともな精神が保てず自分に酔い、あるいは敵を憎んで、必死に現実から目をそらす。
しかし、天才は違う。
天才は現実を直視し、自分の責任を理解したうえで、決断をする。
私は、食事が喉を通らない事も白起の才能を示していると思った。
でも、それとこれとは話しが別である。
一緒に生活し、白起の健康を気遣う身としては少しでも何かを食べて欲しい。
私が考えた末に出した結論は白起を病人の様に扱うというものだ。
つまりは、飲み物、薬、お粥である。
そして実際、白起はある種、戦病という病気にかかっているとも言えた。
まず私は白起の飲み物としてお茶を選んだ。
この時代のお茶は、薬として扱われている。
そして、お茶には気持ちを落ち着ける効果があるから、多分興奮のし過ぎで交感神経がやられている白起には効果が期待できる。
かなりの高級品だが白起は将軍なので、なんとかこれを手に入れることが出来た。
そして私は白起の働く様子を観察しながら、時折、お茶を飲ませた。
飲み物兼薬である。
すると白起は少しだけ落ち着いた様子を見せるようになった。
また私は、昆布で出汁をとったお粥など、食べやくて温かい、香りの良いもので白起の食欲を誘った。
その事で効果があったのか、白起は少しずつ食事を食べるようになった。
しかし、戦が近づくにつれ、白起はそれも食べなくなった。
結局白起の戦病は不治の病だったのだ。
「すまない」
そう一言言い残し去って行った白起を見て私は思った。
この人はなんて生きづらいのだろうと。
それと同時に私は心から願った。
戦など、この世から無くなれば良いと。