社宅は社長の家の2階でした【佳作受賞】
「下でお茶でも飲みながら、説明するよ。
のどか、おいで。」

俺はのどかを1階のダイニングに連れていった。

「座って。」

と、のどかを座らせ、キッチンに向かう。

「のどか、コーヒーでいい?」

と聞くと、

「うん。」

と答えた後で、慌てて、

「あ、はい!」

と言い直した。

『うん』でいいのに。

その方が俺たちの距離が縮まった感じがする。

「ここでは、敬語じゃなくていいよ。
俺ものどかって呼んでるし。
でも、会社では、『佐倉さん』って呼ぶから、
のどかも『社長』って一応呼んでね。」

俺はのどかにそう言った。

「はい。」

だけど、返ってきた返事はそれかぁ。

「のどかは、砂糖とミルクはいる?」

「はい。」

だよな。のどか、苦いコーヒーは苦手だった。

大人になっても変わってないのかな?

「どうぞ。」

俺は、のどかのコーヒーにだけ、砂糖とミルクを2つずつ添えて出した。

「あの、これ…」

だけど、のどかは砂糖とミルク、2人分まとめて自分のソーサーに乗ってると思ったらしい。
俺に1つずつ渡そうとしてきた。

「ああ、俺、ブラックだから。」

そう伝えると、ようやく2つとも自分の分だと理解したようだ。
< 154 / 257 >

この作品をシェア

pagetop