社宅は社長の家の2階でした【佳作受賞】
「いつもありがとう。
今日は特に疲れたでしょ?」

などと言って肩を揉む。

好意を無下にするのもと思い、

「いえ、大丈夫です。」

と言いながらも、されるがままになっていたら、徐々にエスカレートしてきた。

運転手付きの社長専用車で移動する際、本来秘書は助手席に座り、社長は後部座席に座るのだが、打ち合わせや資料を見せるなどの理由を付けて隣に座らせ、どさくさ紛れに手や太ももに触ってくる。

そのうちに、自分で運転したいと言い出し、私を助手席に乗せて2人で移動しようとする。

それも、決まって、直帰になる外出の時に。

さすがに身の危険を感じて、秘書課長から体面や安全のために、運転手さんにお願いするよう説得していただいたが。

のらりくらりと社長のセクハラを交わしつつ、まもなく2年が経とうという頃、それは起こった。

北海道出張に同行を命じられ、私も一泊の予定で出張に出た。

取引先との打ち合わせも終わり、ホテルに戻ると、キャリーバッグに翌日の資料を入れたが、鍵を失くして開けられないから、探して欲しいと電話があった。
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