決して結ばれることのない、赤い糸
この吹奏楽部員のコは、わたしと隼人が付き合っていることは知らない。


わたしは悟られないように相づちを打ちながら、恥ずかしさで赤くなった顔を首にかけていたタオルで隠す。


実は、隼人は初戦の試合からゴールを決めたら、わたしに向かってあのポーズをしてくれていた。


ピッチと観客席からじゃ会話はできないし、もし大声を出したって、歓声で掻き消されてしまう。


だけど、ゴールを決めた隼人があのポーズをしてくれたら…その瞬間だけ目が合う。


次のポジションに移るまでのわずかな時間――。

たった数秒かもしれないけど、その数秒の間、言葉は交わせなくても、まるで隼人と心が繋がっているように感じる。


『ずっと俺を見ていて』


そういう意味が込められているらしい。


だからあれは、わたしと隼人だけのヒミツの合図なのだ。
< 21 / 320 >

この作品をシェア

pagetop