決して結ばれることのない、赤い糸
「…あ!隼人だっ」


大通りに出ると、道路を挟んだ反対側の駅前に隼人の姿が見えた。


隼人も遠くからわたしに気づいて、にこっと笑って手を振ってくれる。


早く隼人に会いたくて――。

わたしは軽い足取りで、歩道橋の階段を上った。


歩道橋を渡りながら、風で乱れた髪を整える。


隼人との距離は、あと20メートル足らず。

わたしは、下りの階段に一歩足を置いた。


――そのとき。


「…だれかっ!!その男を捕まえてー…!!!!」


悲鳴に近いような女の人の叫び声が、夕方の駅前に響く。


驚いて目を向けると、うつ伏せで倒れる女の人の視線の先には、バッグを抱えたマスクをした男の人が、猛スピードで逃げて行くのが見えた。


隼人も声に反応して振り返ったけど、すでに男の人は隼人の横を通り過ぎていて――。
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