春待ち
その時僕は彼女―恵の勢いに押されて失っていた冷静さを取り戻し、幸い恵も話し掛けてこなくなったので頭の中で思いを巡らせた。
この佐藤恵という女の積極さは異常ではないか? 僕は昔から口下手で人との付き合いが苦手だった。友達はもちろん、異性との交流なんて皆無に等しい。僕はうまく笑えない。どうしても、愛想笑いのようになってしまって相手を不快にさせた。そうしていつからか僕は笑うことを拒み、周りの人間を拒んだ。そんな僕に自ら近付いてくるなんて、ましてそれは周囲が羨むような美人だなんて、そんなうまい話があるだろうか。

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